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ふくをさずけたぶんぼうがみ
『福を授けた貧乏神』

― 香川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに男が住んでおった。
 その男は、よっぽど貧乏神(びんぼうがみ)に見込(みこ)まれているとみえて、どうにもならないほど困っておったと。正月が近づいても餅(もち)をつくどころではない。ホトホト閉口(へいこう)しきって、どうしたらよかろうと思案(しあん)しているうちに、とうとう大晦日(おおみそか)の晩になってしまった。
 昔から大晦日の晩には大火(おおび)を焚(た)くならわしだというのに、その薪(まき)の一本もない。男は、仕方がない、と、床板(ゆかいた)をべりべりはがして燃やしておった。

 
 すると、奥の方でゴソゴソと音をたてる者がおる。
 「はて、この貧乏家に入り込むとは」
と奥をうかがっていると、ぼろを着て、乱れ髪(みだれがみ)をたらした年寄りが出て来た。
 「わしは貧乏神じゃよ、わしにも火にあたらせ」
 男が怒って床板で殴(なぐ)りつけようとすると、貧乏神はそれを制して、
 「まあ待て待て、火にあたりながらわしの言う話を聞け。わしはこの家に来てから、もう八年にもなるがのう」
と話をはじめた。
 「わしはな、お前がかまどの前に茶かすやご飯の残りを投げ捨てるのでこの家が気に入っておる。お前が、もし金持ちになりたきゃ、まずかまどを大事にあつかうことだ」
 男は貧乏神の言うことがいちいちもっとものことなので、殴りつける事も言い返すことも出来ずにシュンとなってしまった。

 これを見た貧乏神は、
 「ま、とりあえず、酒を買って来い。徳利(とっくり)が無ければそれも買って来るがいい」
と言いつけて、お金を渡してくれた。

 
 男はそのお金で町へ行って、徳利と酒を一升(いっしょう)買い戻って来た。それから二人して酒を飲んでいると、貧乏神はこんなことを言った。
 「これ、よく聞けよ、お前が金持ちになりたいなら、わしのいう通りにするがいい。今晩は大歳(おおどし)の晩じゃけに『下にー、下にー』と言って殿さまがお通りになる。行列がやって来たら、お前はお駕籠(かご)をめがけてなぐり込め」
 「そんな大それた恐ろしいこと…」
 「お前が金持ちになる方法は、これより無いのじゃ」
 そこで男は、貧乏神の言う通りに、天秤棒(てんびんぼう)を持って待ち構えていると、やがて、たくさんの提灯(ちょうちん)をともして行列(ぎょうれつ)が来かかった。
 男はうろたえて、お駕籠をなぐるつもりが先ぶれをなぐってしまった。先ぶれはコロリと転がって死んでしまい、行列はずんずん通り過ぎてしまった。
 ああ、とんでもないことをした、と思って死んだ先ぶれをよく見ると、先ぶれは銅貨(どうか)に変っていた。

 
 そこへ、貧乏神がやって来た。
 「どうして殿さまをなぐらなかった。年が明けたら、もう一辺(いっぺん)だけお駕籠が通るから、今度こそぬかるなよ」
 そうこうする内に除夜の鐘が鳴り、年が明けて元旦(がんたん)になった。
 男が家の開口(かどぐち)に立って、天秤棒を構えて待っていると、また、たくさんの提灯をともして殿様の行列が通りかかった。
 今度こそ力いっぱいお駕籠をなぐりつけた。
 すると、ガチャーンという大きな音がして、お駕籠の中から小判がザクザク、ピカピカこぼれ落ちた。
 男は大金持ちになったそうな。

 そうらえ ばくばく

「福を授けた貧乏神」のみんなの声

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