民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. 松の木のお伊勢参り

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

まつのきのおいせまいり
『松の木のお伊勢参り』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある村の八幡(はちまん)様のお宮(みや)に何百年も経った二本の松の木が並んで立っておったと。
 村の衆は、この松を夫婦松(みょうとまつ)と呼んで、注連縄(しめなわ)張ってうやまっていたと。
 ある年の春のこと。
 この夫婦松が人間の夫婦の姿になって、お伊勢参り(おいせまいり)に出掛けたそうな。
 宿屋に泊ったとき、宿帳(やどちょう)には越後(えちご)の国の松蔵(まつぞう)と松代(まつよ)と書いたと。
 翌朝になって、宿代を請求(せいきゅう)されると二人は、モジモジしてこう言ったと。 


 「まことに申し訳がないども、道中で銭(ぜに)を使いすぎて、宿賃(やどちん)の払(はら)いが出来ねえ。ついては、どうか二人を宿賃だけここで使うてくんなせ」
 「そうせば、毎日お客さんが立て込んで忙(いそが)しいことだし、二人で働いてくんなせ」
 二人は、くるくる、まめまめ働いたと。そうして、宿賃に余(あま)るほど働いてからお礼を言って越後へ帰って行ったと。 
 その年の秋になって、稲(いね)のとりいれも終った頃、その村の衆がお伊勢参りに行って、同じ宿屋に泊ったと。
 そうしたら、宿の主人が宿帳を出して見せ、
 「お前さん方(がた)の村に、松蔵と松代という夫婦者(ふうふもん)はいるかいの。実は、春の頃にこの夫婦者がここに泊って、宿賃が払えなかったので働いてもろうたら、ようけえ働いて行ってくれた。余分のこの金、その夫婦者に渡して下さりませんか」
と言うた。


 村の衆は顔を見合わせて、
 「はて、そんな人、村にいたろうか。おら聞いたことがねえな」
 「いや、待てよ、ある、ある。それはきっと八幡様の夫婦松のことだ。松の上の方に、お伊勢様のお札がヒラヒラぶらさがっていたっけが」
 「おう、そういえばそうじゃ。そうか、八幡様の松がお伊勢参りをしなすったか」
とわかって、そのお金をあずかって来、お宮のおさいせん箱に入れたそうな。

 いつご昔がつっつぁけた。

「松の木のお伊勢参り」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

山姥と馬子(やまんばとまご)

 なんと昔があったと。  むかし、あるところに馬子(まご)があった。  馬を追って、毎日毎日山道を通(かよ)っていたと。  寒うなった頃(ころ)、山向こうの人に頼(たの)まれて、馬の背(せ)にブリをくくりつけて山道を行ったと。

この昔話を聴く

お菊ののろい(おきくののろい)

むかし、上州(じょうしゅう)、今の群馬県沼田(ぐんまけんぬまた)というところに、小幡上総介(おばたかずさのすけ)という侍(さむらい)がおったそうな。

この昔話を聴く

栗山の狐(くりやまのきつね)

 昔、津軽(つがる)の泉山村(いずみやまむら)に喜十郎(きじゅうろう)ちゅう百姓(しょう)いであったど。  秋になって、とり入れが終わったはで、十三町の地主のどごさ、年貢米(ねんぐまい)ば納(おさ)めに行ったど。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!