メアリー・ポピンズみたいで笑った( 30代 )
― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところになまけものの男がおったと。
毎日遊(あそ)びほうけて、ちいっとも畑仕事を手伝わん。とうとう親に勘当(かんどう)されてしまったと。
仕方(しかた)ないので、どこというあてもなく歩いていると、ある畑で大勢(おおぜい)がゴボウ抜(ぬ)きをしていた。
「これならおらでも出来る」
と、
「どうぞ、おらを雇(やと)ってつかわさりませ」
というて頼(たの)むとすぐに雇うてくれた。大勢にまじってゴボウを抜いていると、大きすぎてなかなか抜けないのがあった。
ありったけの力を入れて、「うん」とやったとたんに、スポンと抜けて、その勢いで大阪(おおさか)の桶屋町(おけやまち)まで飛ばされてしもうたと。そこで一軒(いっけん)の桶屋に行って、
「どうか置(お)いてつかわさりませ」
と頼むと、すぐに置いてくれた。そこで見よう見まねで大きな桶のタガをとんとん締(し)めていると、どうにかしたはずみに、そのタガがポンとはじけて、その拍子に京の都の傘屋町(かさやまち)まではじき飛ばされてしもうたと。
そこで一軒の傘屋へ行って、
「どうか置いてつかわさりませ」
と頼むと、すぐに置いてくれた。
ある日、大っきな唐傘(からかさ)をたたもうと柄(え)を持(も)ったら、にわかにつむじ風が吹(ふ)いて来て、そのまま空へ吹き上げられてしもうた。しっかり傘の柄につかまっていると、だんだん上へ昇(のぼ)って、とうとう天竺(てんじく)まで飛ばされてしもうたと。
「はあて、とんだところへ来てしもうた」
と、キョロキョロながめまわしてると、向(む)こうに灯(あかり)が見えた。やれ嬉(うれ)しやと行ってみると一軒の家があって、中では女が一人、糸巻(ま)きに糸を巻きとっていた。
「おいてつかわさりませ」
と頼むと、女はびっくりして、
「あれ、お前はどこから来たや」
という。
「はあ、下界(げかい)から傘と一緒に飛ばされて来た。何せ、初めての所で勝手(かって)が分からんもんで」
「そうか、ここは雷(かみなり)さまの家ですが、いま留守(るす)だから戻(もど)って来たら聞いてあげましょう」
という。
しばらくすると、ゴロゴロというて雷さまが戻って来た。雷さまの女房(にょうぼう)が訳(わけ)を話すと、
「そんなら、わしの後からついて来て、雨を降(ふ)らす役をしてくれ」
それから毎日、雷さまの後からジョウロの水をまいて歩いたと。少しの水でも下界では、
「そりゃ雨が降った」
というて、あちこちで大騒(おおさわ)ぎをする。それがあんまり面白(おもしろ)いので、喜んでいるうちに、うっかり雲(くも)を踏(ふ)みはずしてしもうた。ヒュウヒュウ降りて海の中にどぶんと落ちてしもうたと。
そこで竜宮(りゅうぐう)へ行って、
「どうぞおいてつかわさりませ」
と頼むと、乙姫(おとひめ)さまが、
「ちょうど庭(にわ)掃(は)きがいないので困(こま)っているから置いたげる。けれども一ついうとくことがある。庭を掃いていると上の方からうまそうなものが沢山(たくさん)下りてくるけど、決して食べなさるなよ」
という。
庭を掃いていると、なるほど上の方からうまそうなものが下りて来て、口の端(はた)へツンツン当たる。始めのうちは辛抱(しんぼう)しておったが、だんだん腹(はら)はへるし、うまそうだし、つい一口食ってしまった。すると、きりきりと上へ引き上げられた。
「あいてて、あいてて」
というているうちに舟(ふね)の中に釣り上げられた。
舟には大勢の漁師(りょうし)たちがいて、
「人魚(にんぎょ)が釣(つ)れた」
「人魚が釣れた」
といって、騒(さわ)ぎ出した。
「まあ、まってつかわさりませ。おらは人魚でねえ。人間だ」
というて、ゴボウから竜宮までの話をすると漁師たちはすっかり感心(かんしん)して国まで送ってくれたそうな。
それからは、親のいうことを聞いて、よく働(はたら)くようになったと。
それも一昔(ひとむかし)。
メアリー・ポピンズみたいで笑った( 30代 )
とんとむかし。高知県土佐の幡多の中村に泰作さんというて、そりゃひょうきんな男がおったそうな。 人をだますのが好きで、人をかついじゃ面白がりよったと。 ある日のことじゃった。 泰作さんは屋根にあがって、ひとりで屋根ふきをしょった。 ほいたらそこへ、近所の若いしらが二、三人で通りかかったちゅうが。
北海道(ほっかいどう)の江差(えさし)といったら、春先にはニシン漁で夜も昼もないほど賑(にぎ)わったものだ。「ニシン群来(くき)」というて、ニシンが…
「漁師に釣られた男」のみんなの声
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