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たけきりじい
『竹伐り爺』

― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに竹伐り爺がおったと
 ある日、爺が竹藪へ行って、カッツン、カッツン竹を伐(き)っていたら、そこを殿様の行列が、下に―、下に―、とお通りになったと。
 「そこで竹伐るは何者だぁ」
 「日本一の屁こき爺でござる」
 「それじゃあ、ひとつこいてみよ」
 「ここじゃあ竹の切り株が立って、ようこきません」
 「そうか、それじゃあ、むしろの上でこいてみよ」
 「むしろのひげが立って、こかれません」
 「それじゃあ、たたみの上でこいてみよ」
 「たたみの上じゃあ、尻(しり)が滑(すべ)って、ようこきません」 


 「それじゃあ、わしの肩の上でこいてみい」
 「殿様の肩の上じゃあ、おそれおおくてこかれません」
 「かまわん、かまわん」
 「なら、ひとつ、こかしてもらいます」
と、いうことになって、爺は殿様の肩の上へあがって、

 錦(にしき)ザラザラ 黄金ザラザラ
 スッペラポ―ンのポ―ン と、屁をこいたと。
 
 その音があまりにいい音で、その上、じゃこうのようないい匂いを周囲(あたり)に放(はな)ったから、お供の衆もたまげて、何遍も匂いをかいでおったと。殿様は、
 「こりゃ、まあ、不思議な爺じゃあ」
と、仰せになって、たくさんの褒美(ほうび)を下されたと。
 そしたら、隣の爺がそれを聞きつけて、
 「わしも、あんな褒美がもらいたい」
と思うたと。


 次に殿様が村をお通りになる日に、竹藪に入って、カッツン、カッツン竹を伐っておったら、
 「下に―、下に―」
と、来て、
 「そこで竹伐るは、何者だあ」
と、お尋ねになった。
 
 隣りの爺は、いばって、
 「日本一の屁こき爺なるぞ」
と、いうた。
 「それじゃあ、ひとつこいてみよ」
 「ここじゃあ、竹の切り株が立ってようこけん」
 「それじゃあ、むしろの上でこいてみよ」
 「むしろのひげが立ってこかれん」
 「それじゃあ、たたみの上でこいてみよ」
 「たたみの上じゃあ、尻が滑って、ようこけん」
 「それじゃあ、わしの肩の上でこいてみよかまわんぞ」
 「なら、ひとつこかしてもらおうかい」


 隣りの爺は、殿様の肩の上へあがって屁をこいたと。こいたはいいが、

 備後備中(びんこびっちゅう)ビイチビチ
 丹後但馬(たんごたじま)のタアラタラ

 と、いうて、下(くだ)りっ腹の匂いの素まで出してしくじったと。 
 「やや、お前、にせの屁こき爺め」
と、叱かられて、刀で尻を斬(き)られたと。
 それで、泣き泣き家へ帰ったら、婆が出て来て、
 「爺さ、爺さ、褒美はどこにある」
と、聞いた。隣りの爺、
 「褒美どころか、尻を斬られたあ」
と、倒れてしまったと。

 昔こっぷり。

「竹伐り爺」のみんなの声

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