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こんなばん
『こんな晩』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再話 大島 廣志

 むかし、一人の六部(ろくぶ)が旅をしておった。
 六部というのは、全国六十六ヶ所の有名なお寺を廻っておまいりをする人のことだ。六部たちは、夜になると親切な家で一晩泊めてもらっては旅を続けていた。
 その六部がある村に着いたとき、日も暮れてきたので、村はずれの一軒の家に泊めてもらうことになった。夕食を食べ終えた六部は、
 「大分歩いてつかれましたから、今夜はこれで休ませていただきます」
と言うと、奥の寝部屋(ねべや)へ入った。
 ところが、夜遅くなっても、六部の部屋のあかりがついている。何をしているのだろうと、家の主人が戸のすき間からこっそりのぞくと、部屋の中では六部が金を数えていた。
 

 
 『ほほう、たんまり持っているな、あれだけあれば一生楽に暮らせる。ようし、あの六部を殺して金を奪(と)ってやろう』
 そう思った主人は、大きな声で、
 「六部さん、起きてるかい。いい月だから外へ出てみなされ」
と言って、うまく六部を外へ連れ出した。
 六部が、
 「月はどこにも見えないが」
と、振り向いたところ、主人はいきなり隠していたナタを振り上げ、六部を殺してしもうた。
 

 
 主人は、六部から奪った金で商(あきな)いをして、またたく間に金持ちになった。
 やがて、この家に子供も生まれた。
 長い間子供が出来なかっただけに、主人は喜んで喜んで、たいへんな可愛いがりようだった。
 ところが、その子は泣き声もたてないし、二つになっても、三つになっても一言もしゃべらなかった。
 子供が五つになったある晩のこと、寝床(ねどこ)の中でむずかった。主人は、きっと小便だろうと思って、子供を抱いて外へ出た。
 月の出ていない晩だった。
 「早く小便をせいや」
と、主人がいうと、今まで一言もしゃべらなかった子供が、突然、
 「こんな晩だなあ」
と言った。
 主人はびっくりして、とっさに、
 「何が」
と聞くと、
 「六部を殺した晩よ」
と、子供が言った。
 

 
 いつの間にか、子供の顔は殺した六部の顔になって、主人をにらみつけていた。
 主人はおそろしさのあまり、気を失い、そのまま死んでしまったという。


こんな晩挿絵:福本隆男

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