私もこの手を使おうかな????( 40代 / 女性 )
― 北海道江差町 ―
語り 平辻 朝子
再話 佐々木 達司
整理・加筆 六渡 邦昭
江差(えさし)の繁次郎(しげじろう)は怠け者であったと。
ニシン場(ば)では、次から次へと水揚(みずあげ)されるニシンを、モッコに入れて運ぶ者、仕分(しわ)けする者、腹子(はらこ)をかき出す者、ミガキ用に干(ほ)す者と、皆々まるで戦場のように忙がしく働いているというのに、繁次郎は働くのが嫌で仕方がない。何とか働かなくてすむ方法はないものかと思案(しあん)したと。やがてニンマリすると親方のところへ行った。神妙(しんみょう)な顔をして、
「親方(おやかた)、ひとつ頼(たの)みごとあって来たジャ」
「何だバ、繁次郎」
「俺、今度、観音(かんのん)さま信心(しんじん)することにしたバテ良(よ)ごすべガナ」
「良いも何(な)も、繁次郎ァまだ、どうしたテ、そした心持(こころもつ)ネなったバ」
「親方ァ恵比寿(えびす)さま信心しているのをみてサ、俺もなんか信心するべと思ったベサ」
親方、すっかり感心したと。
「そうか、そうか」
「そこでひとつ相談あるベサ、観音さまの日だけ、俺バ休ませて呉(け)ヘンガ」
と頼んだ。親方は、
「それァいいことだ。観音さまの日ァ、今度から休んでもよいハデ」
と、許してくれたと。
それからというもの、繁次郎は毎日毎日ぶらぶらぶらぶらするようになった。親方が、
「繁次郎、毎日遊んでねデ、少しは仕事したらどうだバ」
と叱ると、繁次郎は口(くち)をとがらせて、
「したバテ親方ァ、観音さまの日だバ休んでもいいテ、して呉たっショ」
というた。
「観音さまの日だば休んでいいバテ、あどの日働けばいいデバ」
というたら、繁次郎、ここぞとばかりに澄(す)まして、
「観音さまァ三十三あるもだネ。一ヶ月ァ三十日だハデ、毎日休んでも、親方サ三日ずつ貸しがあるデバ」
こういうた。
親方ァ、目を点にして、開いた口がふさがらなかったと。
挿絵:福本隆男
繁次郎は、毎日遊んで手間賃(てまちん)をもらったと。
とっちぱれ。
私もこの手を使おうかな????( 40代 / 女性 )
江差(えさし)の茂二郎(しげじろう)て人、あるとき、山さ行(え)たわけだ。 官林(かんりん)の山の木を盗伐(とうばつ)すると山役人にとがめられるども、わいろをつかまえさせると御免(ごめん)してもらうによいという評判(ひょうばん)であった。
むかし、越後の国、今の新潟県に源右ヱ門という侍がおったそうな。度胸はあるし、情けもあるしで、まことの豪傑といわれたお人であったと。あるときのこと、幽霊が墓場に出るという噂が源右ヱ門に聞こえた。
「江差の繁次郎「観音と休み」」のみんなの声
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