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うたのさぶろうとふえのさぶろう
『歌の三郎と笛の三郎』

― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところに歌の三郎と笛の三郎という若者が隣(となり)合って住んでいた。
 歌の三郎は歌が上手で、笛の三郎は横笛が上手だった。
 二人は、もっと広い世界で芸を試(ため)してみたくなった。歌試し、笛試しの旅へ連れだって出かけたと。
 あちらの町に歌うたいが居ると聞けば行って競(きそ)い、こちらの町に笛吹きがいると聞けば行って競い、二人の名前はその都度(つど)高まっていったと。


 旅また旅のある日、笛の三郎が急の病(やまい)を患(わずら)い、野中の一軒家(いっけんや)の戸を叩(たた)いた。その家には美しい比丘尼(びくに)が一人で住まっていて、快(こころよ)く笛の三郎を看病(かんびょう)してくれたと。

 その頃の比丘尼は、必ずしも本当の尼僧(にそう)とは限らず、訳(わけ)ありの身分の高い女御(にょうご)の仮の姿でもあったから、たいていは歌舞音曲(かぶおんぎょく)に通じていた。笛の三郎の病が少しづつよくなって、笛を吹けるほどになったとき、その笛の音に合わせて、比丘尼は舞(まい)を舞った。笛の三郎と比丘尼は互(たが)いに心ひかれるようになったと。

 笛の三郎は歌の三郎に、
 「三年後には村に帰るから、すまぬがお前ひとりで行ってくれんか」
というた。歌の三郎は、
 「では、三年経(た)ったら村で会おう」
というて、ひとりで旅立って行ったと。


 三年経ったある日、歌の三郎はひとりで村へ帰ってきた。
 村人たちは、笛の三郎が一緒でないのを不審(ふしん)がった。そして、笛の三郎は、歌の三郎に旅の途中で殺(ころ)されたらしい、と噂(うわさ)しあった。村役(むらやく)が来て、
 「こんな噂が広まっておる。放ってもおけんので」
というて、事情(じじょう)を聞いて帰った。
 そしたら、それが裏目(うらめ)に出た。村人たちはなおのこと、歌の三郎を嫌(いや)な目で見るようになったと。
 歌の三郎は、それを大層(たいそう)苦にして、もう一度笛の三郎探しの旅に出た。
 あの野中の一軒家へ行ったら、今は住む人もなく、近くの村々、道筋(みちすじ)の町々を訪ね歩いたが、笛の三郎が立ち寄った形跡(けいせき)はどこにもなかった。
 村へ帰った歌の三郎は、村の人たちから責められて、その夜、舌をかんで死んだと。

 笛の三郎は江戸にいた。比丘尼は尼装をやめ、女房(にょうぼう)となっていた。笛指南(しなん)の看板をかけ、位(くらい)の高い侍の家に出入りして、村のことも、三年の約束も忘れていた。


 ある晩、歌の三郎の夢を見た。胸騒(むなさわ)ぎがして、「すぐに戻るから」と女房に言い残し、急いで村へ帰ったと。
 笛の三郎が村へ帰ったその日は、歌の三郎の四十九日法要(ほうよう)の日だった。

 笛の三郎の元気な姿を見た村人たちは、訳を語り、口々(くちぐち)に、笛の三郎をひどい奴だとなじったと。
 笛の三郎は、自分のために死ななければならなかった歌の三郎のことを思うと、一曲、ひどく悲しげなのを吹いて、それがおえるとすぐに自害(じがい)したと。

 江戸で笛の三郎の帰りを待っていた女房は、いつまでも帰らないのを心配して、笛の三郎の故郷(ふるさと)を訪ねたと。
 村へ着いて、笛の三郎が死んだことを聞いた女房は、大層悲しんだ。しかし、再び尼僧にはならずに、私は笛の三郎の女房ですから、というて、年寄った笛の三郎の両親にこまごまと仕(つか)えたと。


 女房が糸つみを始めると、どこからともなく笛の音が聞こえてくるようになった。
 両親がけげんに思って、糸つみ部屋をのぞいてみたら、女房のそばで笛の三郎が笛を吹いていた。思わず、
 「三郎、お前、生きてたか」
と、声を出したら、その姿は煙(けむり)が消えるように消えてしまったと。不思議(ふしぎ)なことに声だけが、
 「父上、母上、私はもう姿をみせることが出来ませんが、嫁から産まれる子供は、まさしく私の子供です。どうぞ、女房と子供を可愛(かわい)がってやって下さい」
と聞こえた。

 やがて、女房は男の子を産んだ。名前を横笛(よこぶえ)とつけた。その子は成人してから笛の三郎の形見(かたみ)の笛を持って京の都へ上り、名高い笛の名人になったと。
 あったといや。

「歌の三郎と笛の三郎」のみんなの声

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悲しい

奥さんのせいで悲しいことになって怖かった。でも奥さんが両親に仕えたのは 笛の三郎のことを本当に愛してたんだなあと思った。( 10代 / 女性 )

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