― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎
整理・加筆 六渡 邦昭
とんとむかし。高知県土佐の幡多(はた)の中村に泰作(たいさく)さんというて、そりゃひょうきんな男がおったそうな。
人をだますのが好きで、人をかついじゃ面白(おもしろ)がりよったと。
ある日のことじゃった。
泰作さんは屋根にあがって、ひとりで屋根ふきをしょった。
ほいたらそこへ、近所の若い衆(し)らが二、三人で通りかかったちゅうが。
「ありゃ、泰作さんよ、おまんそりゃ逆ぶきじゃがな」
「ホウ、そうかよ。わしゃ、ちっとも知らざったよ。そんならためしに、やってみてくれんか」
泰作さんはこういうて、若い衆らを屋根の上に呼(よ)び上げたと。
みんなはあがってくると、
「屋根は、こうやって、ふくもんぜよ」
と、言いながら、せっせこ、せっせこ、ふきはじめたと。
すると、それを見すました泰作さんは、トコトコ下へおりて、台所へ入っていったそうな。そうして、台所から一升(いっしょう)どっくりを探(さが)し出して来ると、みんなが見よる前で、ていねいに洗いはじめたと。
洗いおわると、一升どっくりを目の前にかかげながら屋根ふきをしよる若い衆らに、
「おまんら、まあ休み休みやりよってくれや。わしゃ、ちょっこり使いに出てくるけんのう」
こういうちょいて、小走りに出ていったと。
「へへへ、泰作さん、酒を買いに走ったぞ」
「『どうもご苦労さん、ちくと一杯』というつもりじゃろ」
「ほんならまあ、晩(ばん)を楽しみに、精だして屋根をふくか」
若い衆らは、いよいよ、せっせこ、せっせこ屋根ふきをしよった。
ところがなんぼ待っても、いっこう泰作さんは戻(もど)ってこん。もう大方(おおかた)屋根ふきが終わったという時分(じぶん)に、ひょっこり戻って来たと。
若い衆らは、やれ、酒が飲める、と泰作さんを見ると、どうじゃろうのう、酒屋に行っていたはずの泰作さんは、とっくりを持っちょらん。手ぶらだ。
「泰作さん、おまん、酒はどこな」
「おお、酒な。酒はこんつぎ呑(の)ませるけん、まあ今晩は帰ってゆっくり休んでくれや。おまんら、今日はえらい世話になったのう。いや、ご苦労さん、ご苦労さん」
とすましちょる。
泰作さんは、酒屋には行くには行ったけんど、カラになったとっくりを返しに行ったがじゃ。
泰作さんの屋根ふき作戦(さくせん)に、見事にひっかかった若い衆らは、
「またやられた」
という顔して、スゴスゴ帰って行ったそうな。
むかしまっこう 猿まっこう。
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むかし、むかし、あるところに爺さんと婆さんとが暮らしてあった。爺さんは毎日山の畑のウネ打ちに行っておったと。ある日のこと、爺さんが畑のウネを打っていたら、畑の縁(へり)にあった石に猿(さる)が腰掛(こしか)けて、爺さんの悪口言うたと。
「屋根ふき作戦」のみんなの声
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