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いくつになっても
『幾つになっても』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが二人して暮らしていたと。
 爺さんと婆さんは、年が年とて、畑仕事がきつくなってきた。
 爺さんは、お寺の和尚(おしょう)さんに掛(か)け合って、寺奉公(てらほうこう)することにしたと。婆さんに、
 「俺(おれ)、寺で庭掃(にわは)き爺になることになった」
と言うたら、婆さん、
 「あれ、そんじゃ寺に住(す)むんかい」
と聞いた。
 「そうなるな」
 「おらも一緒に住まっていいんかえ」
 「うんにゃ、いくら婆さんでも、女はだめだ」


 「爺さんだけかえ」
 「そうなるな」
 「どうでも、おらはだめかえ」
 「そうだ」
 「おら一人で、この家に残るんかい」
 「わずかでも、給金(きゅうきん)がもらえるんじゃ。いままで永(なが)いこと二人で暮らしてきたから、一人というのは心細(こころぼそ)いだろうが、辛抱(しんぼう)してくれんか。わしらには、これしかないんじゃ」
 「ンでは仕方(しかた)ないわいね。
 ンでも、寺にはいろんな人が相談に行くわいね。……女の人も行くわいね。爺さん、めんどうみがいいから、すぐ仲好(なかよ)くなれる」
 「何を心配しとるか。いい年こいて」
 こうして爺さん、住み込みで寺の庭掃き爺になったと。
 五日たち、十日たち、二十日もたったころ、近所の人が寺に用があって行くから、と言うて婆さんの家に立ち寄ってくれた。


 「そんなら、持っていって欲(ほ)しい物(もん)がある」
言うて、紙に包(つつ)んだ細長い物(もん)を渡(わた)したと。
 近所の人が寺へ着くと、爺さんは竹箒(たけぼうき)を持って庭掃きをしていた。
 「爺さん、これ、婆さんから預(あず)かってきた。『大事(だいじ)にしてくれ』って言うとった」
 「へえ、そうかね」
 爺さん、その場で紙包みを広げてみた。近所の人がその中味(なかみ)を見て、
 「何かと思うたら、棒秤(ぼうばかり)の折(お)れたもんでねか。こんなもん。『大事にしてくれ』ってか」
 「はは、いや、まあ、その、なんじゃあ」
 爺さんには、婆さんが何を伝えたかったのか、すぐにわかったと。
 「俺からも婆さんに持って行って欲しい物があるんじゃが、頼(たの)まれてくれんか」
と言うて、ちょいとの間、近所の人の見えない所へ行き、小(こ)んまい石を三粒(みつぶ)拾うて、紙に包んだ。

 
 「これを婆さんに渡してくれるか」
 「ああ、いいよ」
 「渡すときな『昨日も今日も明日も』と言うていたと伝えてくれんか」
 「ん、昨日も今日も明日も、だな。よしよし」
 
 近所の人は和尚さんに会って用をたし、帰ったと。そして婆さんに、爺さんから預かった紙包みを渡した。婆さん、その場で紙包みを広げてみた。
 近所の人が、その中味を見て、
 「何かと思うたら、小石が三粒あるだけでねか。こんなもん、何するんか」
と言うたら、婆さんは、うんうん、とうなずいて、
 「おらには大切な物だ。これ渡さったとき、爺さん、何か言ってなかったかいね」
 「おう、そうじゃった。『昨日も今日も明日も』って、言うとった」
 それを聞いた婆さん、パァーっと笑顔になって、嬉(うれ)しそうだと。近所の人は、
 「棒秤の折れたのといい、小石三粒といい、なんだかさっぱりわからん」
と言うて、首を傾(かし)げ傾げ帰って行った。

 
 婆さんと爺さんのやりとりはこうだ。
 大事にして、と言うて秤の折れたのを持って行ってもらったのは、「おればかり大事にしてくらっしゃい」と言う意味で、小石三粒は、「昨日も今日も明日も、恋し恋し恋し」と言う返事だったと。

  いきがさけた、鍋(なべ)の下ガリガリ。

「幾つになっても」のみんなの声

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