よく一本足で歩いていられる何〜
― 徳島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに一人の桶屋(おけや)がおったそうな。
雪の降った朝、桶屋が外に出て桶を作っていると、山の方から、一つ目一本脚の、恐ろしげな怪物がやって来て、仕事をしている桶屋の前に来て立ったそうな。
桶屋は、それを見て、ふるえながら、
「これが昔から話に聞いている山父(やまちち)というものだな」
と思ったと。
すると、その怪物は、太いおそろしげな声で、
「おい桶屋、お前は今、これが山父というものだろう、と思っているなぁ」
と、言い当てた。桶屋は、
「こりゃあ大変だぁ、こっちの思ったことをさとってしまうらしい」
と思っていると、また、
「おい桶屋、お前は今、思っていることをすぐにさとられてしまうから大変だ、と思ったなぁ」
と言って、ニヤッと笑ったそうな。
桶屋は、ますます恐(こわ)くなって、
「もう何も思うまい、考えまい、早(は)よう去(い)んでくれ」
と、思わず、思ってしまった。
すると、怪物は、ますます嬉(うれ)しそうに、
「おい桶屋、お前は今、もう何も思うまい、早よう去ね、と思ったなあ」
と言って、ニタリニタリ笑ったと。
それから後も、何も考えまいとするけれども、つい何んやかやと考えてしまい、山父に全部さとられてしまう。
桶屋は、ほとほと困ってしまった。そのうち、頭がジーンとしびれポケーとしてきた。おまけに山父のおそろしさと、寒いのとで、ぶるぶるふるえが止まらなくなった。
思わず知らず、かじかんだ手が滑(すべ)って、作りかけの桶のタガの竹の端(はし)が前へ走り、山父の顔をパチンと打った。
さあ、山父はこれにはびっくりぎょうてん。
「いやぁ、人間というやつは、時々、思ってもいないことをするから恐い。ここにいるとどんな目にあうかも知れない。恐ろしや、恐ろしや」
と言って、一本脚でピョンコ、ピョンコ、山の方へ逃げて行ってしまったそうな。
昔まっこう猿まっこう 猿のつびゃあ ぎんがり ぎんがり。
よく一本足で歩いていられる何〜
昔、昔。一人の山伏(やまぶし)居(え)だけど。何時(えじ)だがの昼間時(じき)、一本松の木の下歩いて居たけど。ちょこっと見だば、その木の根っコさ小さな狸(たぬき)コ昼寝(ひるね)して居だけど。
「山父のさとり」のみんなの声
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