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しょうとうとだいじゃ
『小刀と大蛇』

― 高知県 ―
語り 平辻 朝子
再話 市原 麟一郎
再々話 六渡 邦昭

 むかし、ある武士の屋敷にひとりの下男(げなん)が奉公(ほうこう)しちょったと。
 あるとき、この下男が刀鍛冶(かたなかじ)の家へ行って、
 「おらも武士の家へ奉公しちょるきに、刀の一本くらいは持っちょらにゃいかんと思う。
 すまんが一本作ってくれんか。金はないけんど、そのかわり、おら山へ薪(たきぎ)をとりに行きよるきに余分に一把(いっぱ)作って毎日持ってくる」
とかけあった。
 刀鍛冶は刀を作ることを引き受けたと。

 
 下男は刀が手に入る日を心待ちに、雨の日も風の日も薪を運んだと。とうとう三年も続いたっつが。
 三年も経(た)つと、さすがに刀鍛冶も気がとがめたと。適当に打ちあげて作った刀を下男に渡した。それは出来損(できそこ)ないの一尺二、三寸の小刀(しょうとう)だったそうな。
 けんど、刀が手に入った下男は大喜びよ。
 腰に差して肩で風を切って歩く様子(さま)を、主人が見ておかしがったと。
 下男は、刀鍛冶に薪を届けなくてもいいようになったので余裕が出来、魚釣りをするようになった。魚釣りをするたびに、ぎょうさん魚を釣ってくるので、ある日主人が、
 「いったい、どこでそんなに釣って来りゃ」
言うて訊くと、下男は釣り場を教えたそうなが、そこは大蛇(だいじゃ)が棲(す)んでいると言われ、誰も近づかん淵じゃったがよ。
 心配した主人は次の日、下男のあとをつけて行ったと。
 釣り場に着くと下男は釣り糸をたらした。


 しばらくすると、下男が釣りよる後ろの岩穴から、大っきな蛇が這(は)い出てきて、鎌首(かまくび)を持上(もた)げ、ざまな口をあけて下男に近づいてきたと。
 すると、下男の腰の小刀が勝手に鞘(さや)から抜けて、真っ赤な火の棒になると、蛇の目の前をクルリ、クルリ回りはじめたと。
 蛇はこの火の棒に邪魔されて、下男に近寄れない。鎌首を左右に振(ふ)るばあよ。
 このまましばらくして、下男が魚釣りを止めて帰り仕度をはじめた。すると火の輪は消えて、刀は下男の腰の鞘にスルリと治まったと。
 物陰からこれを見よった主人は、下男のあの刀が欲しゅうてたまらんようになったと。
 その晩、下男に、
 「どうじゃ、わしの刀と取り替えんか」
言うて、立派な刀を見せた。
 下男は大喜びで、すぐに取り替えたと。
 次の日、主人はその小刀を腰に差して魚釣りに行った。場所は、昨日大蛇が出てきたあの淵よ。
 主人は護り刀(まもりがたな)を差しちょるもんじゃき、安心して魚釣りをしよった。


 たくさんの魚が釣れて楽しんでいたら、いつの間にか後ろに大蛇がせまって鎌首を持上げ、ざまな口をあけて、シュー、シューと赤い舌を出したりひっこめたりしておった。ハッとして腰の護り刀を見た。
 小刀は勝手に鞘から抜け出てもいないし、真っ赤な火の棒にもなっていない。まして、蛇の目の前でクルリ、クルリ回って、蛇が主人に近づくのを邪魔もしていなかった。
 当てが外れた主人は、「何故(なぜ)だ」と言いながら、小刀を抜いて大蛇に投げつけた。刀は蛇のウロコにカチンと跳(は)ね返されたと。
 主人は、その大蛇に呑みこまれてしまったそうな。
 この小刀には下男の思いが強くこもってあったから、下男が使うときには下男を護っていたけれど、他人が使うても役には立たざったのだと。

  昔まっこう 猿まっこう
  猿のつべは ぎんがりこ。

「小刀と大蛇」のみんなの声

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驚き

下男しか守らない小刀なんですね。( 10代 )

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