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くじらちょうじゃ
『くじら長者』

― 長崎県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 長崎県(ながさきけん)西海市(さいかいし)の松島(まつしま)は西彼杵半島(にしそのぎはんとう)の西一キロ沖(おき)、五島灘(ごとうなだ)に浮(う)かぶ島で、江戸時代(えどじだい)には捕鯨(ほげい)が盛(さか)んな島だった。
 この松島に与五郎(よごろう)という肝(きも)の太(ふ)っとい鯨捕(くじらと)りが住(す)んでおったと。

 与五郎は毎日、
 「どうかして、鯨がたくさん捕れる方法(ほうほう)はないものか」
と考(かんが)えておったと。


 あるとき、寝転(ねころ)んで天井(てんじょう)を見ていたら、一匹のクモが巣(す)を張(は)っていた。張り終(お)えたところにセミが飛んできてひっかかった。
 「そうだあのやり方だ」
 むくっと起(お)きた与五郎は村の人達を集(あつ)めて、大きい丈夫(じょうぶ)な網(あみ)を作らせたと。
 その網を海に張り巡(めぐ)らせておいて、たくさんの小舟(こぶね)で鯨を追(お)い入れて生(い)け捕(ど)ったと。
 網組捕鯨法(あみぐみほげいほう)と名付(なづ)けたこのやり方は大当(おおあ)たりで、捕れたたくさんの鯨を買うために、釜(かま)の浦(うら)の港(みなと)には、日本中から幾百艘(いくひゃくそう)もの舟々が出入りしたそうな。


 鯨が一頭(いっとう)捕れると、七浦(ななうら)うるおうといわれたこの時代だもの、与五郎はたちまち長者番付(ちょうじゃばんづけ)にも載(の)るほどのお大尽(だいじん)になり、見事な“鯨御殿(くじらごてん)”を建(た)てたと。
 娯楽(ごらく)に大阪(おおさか)からわざわざカブキ芝居(しばい)の一座(いちざ)を呼(よ)んで、村の人々に観(み)せたりもしたそうな。
 
  〽 沖にドンドン 鳴(な)る瀬(せ)がござる
  〽 大阪芝居の 寄(よ)せ太鼓(だいこ)
 
という盆踊(ぼんおど)りの歌が、外海(そとうみ)の村々に流行(はや)ったほどだったと。


 それほど勢(いきお)いのある与五郎の夢枕(ゆめまくら)に、ある夜、一頭の母鯨があらわれて、
 「わたしは明日の夜明け方、産(う)まれて未(ま)だ間もない子供(こども)を連(つ)れて、この沖を通ります。どうか無事(ぶじ)に通させて下さい」
と、頼(たの)みこんだと。
 しかし、与五郎は気にも留(と)めなかった。

 次の日、沖へ出た舟たちは、二頭の鯨を捕って戻った。一頭は子供であったと。
 どうしたものか、それからはプッツリと鯨が通らなくなった。浜(はま)は寂(さみ)しくなる一方だと。

 
 ある海の荒(あ)れた日のこと、めずらしく鯨が沖を通っているとい知(し)らせがあった。
 あいにく、このところの不漁(ふりょう)と荒れ海のせいで、沖に網を張っていなかった。今から網を持ち出しても間に合わん。昔ながらの銛(もり)で突(つ)くやり方にした与五郎は、
 「よし、おれが行ってくる」
といって、舟に乗り込み、沖をめざしてこぎ出させた。
 舟は荒れた海で木っ葉のようにゆれたが、潮(しお)を吹(ふ)きあげている鯨を見つけ、
 「それ」
と、おそいかかり、自(みずか)ら銛を打(う)ち込んだ。鯨は銛をつけたまま深く深く潜(もぐ)って行った。綱(つな)でつながっているその舟も海の底(そこ)へ引き込まれてしまったと。 

 
 一七一六年、正徳(しょうとく)六年六月六日のことだったと。
 村の人々は大層(たいそう)悲(かな)しんで、与五郎のために立派(りっぱ)な墓(はか)を建てたと。
 この墓は、今も菩提寺(ぼだいじ)に残っているそうな。

  そりぎり。

「くじら長者」のみんなの声

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