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すみやきちょうじゃ
『炭焼き長者』

― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある山里に、ひとりの貧(まず)しい炭焼きの若者が住んでおったそうな。
 なかなかの働き者で、朝から晩(ばん)まで真っ黒になって炭を焼いておったと。
 ある日のこと、
 この若者のところへ、ひとりのお姫(ひめ)さんが訪(たず)ねて来て、
 「どうか、わたしを泊(と)めて下さいませ」
というた。
 若者は、あまりに突(と)っぴょうしもないことなので、つくづくそのお姫さんをながめたと。
 その美しさは輝(かがや)くほどで、何にたとえていいか分からないほどだったと。


 「と、とんでもない。こんな汚(きたな)いあばら屋に、お前さんみたいなきれいな人を泊めることは出けん」
というて断(ことわ)った。が、お姫さんは聞き入れない。
 「わたしは遠いところの、長者の娘ですが、どうした訳(わけ)か、聟殿(むこどの)に縁(えん)がありませんでした。そこで、観音(かんのん)さんに、三、七、二十一日の間、願掛(か)けをしましたら、満願の夜、枕神(まくらがみ)が立って東の方の山奥に居(い)る炭焼のところへ行けとおさとしがありました。あなたさまのことです。もう、ここを動きません。どうか、わたしを嫁(よめ)にして下さい」
というて、何としても立ち去らない。
 それどころか、着物を着替(が)えて、湯などを沸(わ)かしはじめ、ご飯も作って、とうとう泊り込んでしまったと。

 炭焼きの若者は、一人でさえやっとの暮(く)らしのところへ、お姫さんが来たので、ますます貧乏(びんぼう)になって、米を買うことすら出来なくなってしもうたと。


 すると、お姫さんは、
 「ご心配なさることはありません。これを持って行けば、何ぼでも買うことが出来ます」
というて、錦(にしき)の袋(ふくろ)の中から、金の粒(つぶ)を出して若者に渡(わた)したと。
 
 若者には、それが金だとは少しも分からない。
 「こげなもんが銭(ぜに)か、そんなもん、おらが炭焼いとる裏(うら)山に、なんぼでもある」
 こういうと、お姫さんは「まさか」という顔をしたと。
若者は、
 「うそでねえ」
というて、お姫さんを炭を焼いている裏山に連れて行った。
そしたらなんと、本当に、ピカピカ光った金の粒が、あたり一面、大小いろいろに山のようになってあったと。

 炭焼きとお姫さんは、その金を掘(ほ)り出して運び、たちまち、日本一の長者殿になって一生安楽に暮らしたと。
 むかしこっぽり。

「炭焼き長者」のみんなの声

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楽しい

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