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かとくゆずり
『家督ゆずり』

― 岩手県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに、三人の息子(むすこ)を持った分限者(ぶげんしゃ)がおったと。

 あるとき、分限者は三人の息子を呼(よ)んで、それぞれに百両(ひゃくりょう)の金(かね)を持(も)たせ、
 「お前たちは、これを元手(もとで)にどんな商(あきな)いでもええがらして来い。一年経(た)ったらば戻(もど)って、三つある倉(くら)の内(なか)をいっぱいにしてみせろ。一番いいものをどっさり詰(つ)めた者に、この家(や)の家督(かとく)をゆずる」
と、言い渡(わた)したそうな。

家督ゆずり挿絵:近藤敏之

 三人の息子は、それぞれの嫁(よめ)に家の留守(るす)をさせて、思い思いの方角(ほうがく)へ旅立(たびだ)ったと。
 中の息子は大きな町で反物屋(たんものや)を始め、末(すえ)の息子はこれも大きな町で米屋(こめや)をやり、どちらも繁昌(はんじょう)したと。


 上の息子は商いをやるということもなく、あっちを見、こっちを見、ふらりくらりの旅だと。夜になればどこかの古(ふる)いお堂(どう)で眠(ねむ)り、朝になれば、
 「お宿(やど)してもろうて、ありがたかった」
と言うて、必ずお堂の破(やぶ)れ、壊(こわ)れたところを繕(つくろ)って行った。まるで、お堂なおしの旅みたいだが、これが楽(たの)しくてならんのだと。
 
家督ゆずり挿絵:近藤敏之

 
 ある日、海辺(うみべ)を歩いていて、ふと気がついた。
 「なあんもやっとらんのに、はあ、もうじき約束(やくそく)の一年かあ」
 溜息(ためいき)ついて、渚(なぎさ)にしゃがんでぼおっと海を眺(なが)めていたら、小(こ)んまい独楽(こま)が波(なみ)に運(はこ)ばれてきた。それを拾(ひろ)って、何気(なにげ)なく回(まわ)した。
 そしたら何と、独楽が回るたんびに金銀黄金(きんぎんこがね)がザング、ゴングと出て飛び散(ち)った。
 

家督ゆずり挿絵:近藤敏之
 
 「ありゃあ。こりゃ何たらいい物だべえ。お授(さず)け物だべかあ」
と喜(よろこ)んで、独楽を懐(ふところ)にしまって、故郷(くに)へ戻ることにしたと。

 上の息子が故郷に帰ってみると、弟(おとうと)たちの嫁は立派(りっぱ)な衣装(いしょう)に髪容(かみかたち)でぞよめかしているのに、我(わ)が嫁はしょんぼり座(すわ)って、古着(ふるぎ)の継(つ)ぎ接(は)ぎをしておった。

 「今、帰った」
と声をかけたら、嫁は跳(と)び立って出て来た。が、夫の身成(みなり)を見るなり、ぺたんと座(すわ)ってしまった。
 「あや、お前さんは何も持って来ねのスか。家の倉だけが空(から)でがんす」
と嘆(なげ)いたと。

 「なになに、心配(しんぱい)すな。倉はこれから一杯(いっぱい)にする」
と言うて、嫁を連(つ)れて倉の戸を開けた。
 「よおっく、見でろや」
と、言うと、懐からあの独楽を出して、ぶんぶん回した。
 倉の中は、見る見る金銀黄金の山となった。

 嫁は、
 「あやぁ、あやぁ」
と魂消(たまげ)るばかり。

 
 次の日は約束(やくそく)の一年の日だった。
 いよいよ分限者の倉あらためとなった。

 中の息子と末の息子は、嫁をきれいに仕立(した)てて、分限者に、
 「それ酒(さけ)をあがってがんせ、やれ肴(さかな)をあがってがんせ」
と、お取り持ちさせたと。
 酒を呑(の)み、肴を食べて上機嫌(じょうきげん)の分限者は、先(ま)ず、末の息子の倉を開けた。倉の中には米、麦(むぎ)など五穀(ごこく)の俵(たわら)がぎっしり詰(つ)まってあった。
 次に、中の息子の倉を開けた。倉の中には、呉服(ごふく)、反物が山のように積(つ)まれてあった。


 上の息子は、今度は俺の倉だ、と待っていたが、一向(いっこう)に来る様子(ようす)がない。
 「俺の倉も見て呉(け)てがんせ」
と言うたら、分限者は、
 「お前の倉はわざわざ見んでもええ。何かを運(はこ)び入れたとも聞いとらんし、お前のその身成を見りゃ高(たか)が知(し)れとる」
と言うて、振(ふ)り向きもせんのだと。

 それでもと重(かさ)ねて頼(たの)むと、
 「では、見てやるにはやるが、弟たちより勝(まさ)るものが無(ね)がったら、総領息子(そうりょうむすこ)とて家督は譲(ゆず)られねえぞ」
と念(ねん)を押(お)したと。


 ところが、いざ倉の戸を引き開けようとしても重くてなかなか開かない。中の息子と末の息子に手伝(てつだ)わせて、やっとこさ開けた。
 そのとたんに、ざんらがんらと金銀黄金が流れ出た。
 
家督ゆずり挿絵:近藤敏之


 「やあ、やあ、これは・・・・・・。なるほど総領は総領だけのことはある。この家の家督はお前に決(き)まった」
と言うた。
 家督を引き継(つ)いだ総領息子は、嫁と仲(なか)よく末永(すえなが)く安楽(あんらく)に暮(く)らしたと。
 

  どんとはれえ。

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