民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 鼠(ねずみ)が登場する昔話
  3. 山のネズミと町のネズミ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

やまのねずみとまちのねずみ
『山のネズミと町のネズミ』

― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに山のネズミがあった。
 山のネズミの食べる物はどんぐり、栃(とち)の実、アワにヒエだったと。
 山に雪が降って、食べ物をさがすのが大変だったと。
 あるとき、食べ物を探して山のふもとへ下りてきたら、丸々と肥えたネズミに出逢った。
 「やぁや、お寒(さむ)うさん。この辺じゃ見かけたことが無いが、お前(め)、どこから来たや」
 「やぁや、お寒うさん。お前も見たことが無いがどこから来たや」
 「俺は、このうしろの山に棲(す)んでいる」
 「俺は、このうしろの町に棲んでいる」
 あいさつが済んで、二匹は仲良くなったと。 

 
 ある日、山のネズミの家を町のネズミが訪(たず)ねてきた。山のネズミは乏(とぼ)しい冬の貯え(たくわえ)のどんぐりと栃の実を御馳走(ごちそう)した。町のネズミはおいしい、おいしい言うて食べたと。一晩泊って、
 「いや、御馳走になった。今度は、俺ン家(ち)へ遊びに来ておくれ」
と言うて帰って行った。
 
 別の日、山のネズミは町のネズミの家を訪ねた。
 町のネズミの家は、立派な屋敷門のある家で、倉が幾つもあった。町のネズミは、白いご飯に魚をつけて出してくれた。山のネズミは、
 「こりゃすごい御馳走だ。お殿様みたいだ」
と言うて、喜んで食べたと。


 「おかわりして、何ぼでも食うておくれ。ここの家のお倉の中には米も味噌もぎっしり積まさってあるから」
 「いっつも、こんなうんまいもの食べられるなんて、町方はうらやましいなあ」
と言うていたら、ニャオーって声がした。
 「あれは何の声」
と、山のネズミが言うと、町のネズミが、
 「しーっ。黙って、動かないで」
と、顔をひきつらせて言う。また、
 「ニャーオー」
と、今度はさっきより近くで声がした。
 「何、どうしたの、何の声」
と、山のネズミが訊いた途端に、猫が飛び出てきて、町のネズミをくわえて、どこかへ行ってしまった。 

 
 あっという間の出来事で、山のネズミはびっくりして山へ逃げ帰ったと。そして、
 「町のネズミは、米のご飯に魚を添(そ)えて食べとる。棲むところも温(ぬく)い。俺はそれでもこの山の中が一番いい。どんぐりでも、栃の実でもアワでもヒエでも、そんなの食べていても、
ここが一番いい」
と、こう言うたと。

 それっきり。 

「山のネズミと町のネズミ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

蛸の脚七本(たこのあしななほん)

むかし、海べの村に、ひとりの婆さんが住んであった。婆さんは毎日浜へ出ては貝(かい)などを採(と)り、それを売って暮らしていたと。ある日のこと、婆さん…

この昔話を聴く

一休さんと殿さま(いっきゅうさんととのさま)

一休和尚さんは、小僧さんのころからとても頓智(とんち)にたけたおひとだった。まだほんの小僧さんなのに、大人(おとな)のけんかを頓智でまるくおさめたり…

この昔話を聴く

能登の恋路は恋の路(のとのこいじはこいのみち)

むかし。能登(のと)の国、石川県の能登半島のある村に、鍋乃(なべの)という娘がいた。気立てがよいうえに美しい鍋乃は、村の若者のあこがれの的であった。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!