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あぶらとり
『脂とり』

― 石川県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにひとりの男がおった。
 男は、京、大阪を見物しようと旅に出たと。
 旅の途ちゅうである宿に泊(とま)ったら、宿の人たちが、
 「ようおこしになられました」
というて、たいそうもてなしてくれた。男は、
 「いい宿に泊った」
と思うて、きもちよく寝たと。
 真夜中ごろ、男はふと目をさました。隣(とな)りの部屋から「うーん、うーん」という呻き声(うめきごえ)が聞こえていたんだと。気になって、戸の隙き間(すきま)からそおっと覗(のぞ)いて……びっくりした。 

 
 なんと、隣の泊り客が裸(はだか)で天井(てんじょう)から逆(さか)さまに吊(つる)されて、苦しそうに唸(うな)っている。そしてそのからだから脂(あぶら)がポター、ポターと落ちるのを、宿の者が桶で受けていたんだと。
 「おとろしや、おとろしや。早よう逃げんとわしも逆さに吊されて脂をとられてしまう」
 男は、這(は)うようにして宿を抜け出し、山の中へ逃(に)げたと。逃げて、逃げて、夜が明けるころ、炭焼きの穴を掘っていた爺さんに出会った。男が、
 「爺さん、爺さん、おれ、今、人の脂をとる宿から逃げてきた。きっとだれかが追いかけてくるから、すまんが、その穴に隠(かく)まってくれないか」
と頼むと、爺さんは、
 「そんなら、この穴に入れ」
というて、隠まってくれた。 

 
 すこしたって、宿の者たちが追いかけて来た。
 「爺さん、ここに男が逃げてこんかったか」
 「いや、誰も来ん」
 「本当に来なかったか」
 「本当に来ん」
 「そうか、そんなら別のとこ捜すべ」
 追手(おって)が行ったので、爺さんの呼びかけで男は穴から出てきた。
 「ああ、おとろしかったぁ。おかげで命が救(たす)かった」
 男は爺さんにお礼をいって、山径(やまみち)を急いだと。いくがいくがいくと、くたびれてきた。 

 
 「ここまで遠(とお)ざかったら、もう大丈夫だ」
と、足を止めたら、急に眠くなった。それで、大きな岩の蔭(かげ)でひとねむりすることにしたと。
 眠っていたら、突然、山がガラガラドーッと崩(くず)れて、男は土と岩の下敷(したじき)になって死んでしまったと。

 そろりんべったりあぶのかわ。

「脂とり」のみんなの声

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怖い

怖すぎ。恐ろしい。眠れなさそう。

驚き

類話で夢の中の話だったというのは聴いたことがありますがこの結末は予想できませんでした。そうなる天命だったのですかね( 男性 )

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