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てんぐのかくれみの
『天狗の隠れみの』

― 福井県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにばくち打ちがおったそうな。
 あるときばくちに負けてフンドシひとつになってしまったと。
 「カカァの着物を質に入れて金を作ったのに、俺らの着てるもんまではがされてしもた。カカァは恐わいし、人目もあるし、俺らみたいのは、いっそ、天狗に遠くへ飛ばしてもらった方がええのかもしれん」
といって、山道を登って行った。
 ばくち打ちは、天狗の昼寝岩にあがると、どっかと胡座(あぐら)をかいた。
 「さあ、どこへでも飛ばしてくれ」 と言っとったが、なかなか天狗が現われない。そこでサイコロを転がしはじめた。 


 「丁(ちょう)が出た」「半が出た」と、ひとり面白がっておったら、そこへ天狗が現われて、
 「お前はいいもんを持っとるな。本当に京や阪が見えるのか」
と聞いたと。
 天狗は、ばくち打ちが「丁」と言ったのを京都の「京」、「半」と言ったのを「阪神」の「阪」、つまり大阪と聞き間違いしたんだと。
 
 ばくち打ちはそれをいいことに、
 「これはサイコロと言って、見たいと思ったもんが出たり、出なかったり、ま、気まぐれだが、それだけに面白うて、持った者をとりこにする不思議な力がある物だ」
と言った。そしたら天狗が、
 「わしの隠れみのをやるから、それと取り替えてくれんか」
 こう言ったから、ばくち打ちは「これはしめた」と、さっそく取り替えっこして、後も見んと走って山を下りた。
 なにせ、天狗の隠れみのといったら、それを着たら姿が見えなくなる、すごい宝物だ。


 それからは、ばくち打ちは毎日毎晩、万頭屋へ行って万頭を盗って食うは、酒屋へ行ってあびるほど酒を飲むは、やりたいほうだい。
 ある日、嫁さんが箪笥(たんす)を開けたら、汚いみのが入っておった。 「こんな汚いもんを入れてからに」
と云(い)って、土間のかまどで燃やしてしまった。
 
 夕方になって、ばくち打ちが酒飲みに行こと箪笥を開けたら、みのが無い。
 「カカァ、箪笥に入れといたみのを知らんか」
 「あんな汚いもん、かまどで燃やした」
 「なんちゅうことする。あれは天狗の隠れみのだぞ」
 ばくち打ちがあわててかまどへ行き、
 「あゃぁ、もったいねえ」
と、灰を両手ですくったら、手が消えた。


 「こら、灰でも効き目がある」
と喜んで、素裸になると、身体中に灰を塗りつけた。
 「これでまた酒が飲める」
と家を出たら、途中で小便がしたくなった。
 道端でジョージョーしたと。
 それから酒屋へ行って、客が飲み食いしているのを横からしっけいしたと。
 
 姿は見えんのに徳利(とっくり)がひとりでに傾いて酒をつぎ、盃(さかずき)が浮いて酒が空(から)になる。箸(はし)が勝手に動いてツマミもなくなる。
 客は腰を抜かさんばかりに驚ろいた。
 「うひゃあ」
と叫んで跳び退(の)き、遠巻きにして見ておった。


 「天狗じゃねぇか」
と、こわごわよおっく見たら、さっき小便をしたオチンチンの先っぽのところが、ひょっこ、ひょっこと揺れておる。
 「あれれぇ、あそこにぶらぶらしとるのは人間のものだぞ、こら怖(こわ)いことはない、つかまえろ」
と言って、みんなで寄ってたかって飛びかかったと。
 ばくち打ちは蹴られるは殴(なぐ)られるは、ほうほうのていで逃げ帰ったと。

 そうらいべったり牛の糞(くそ)。

「天狗の隠れみの」のみんなの声

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