― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにお父(とう)と息子が住んであったと。
あるとき、馬を一頭、町へ売りに行くことになったと。
お父と息子は、さてどうやって馬を連れて行こうか考えたと。
そこでまず、息子が馬の背に乗り、お父が曳(ひ)いてカッポリ、カッポリ歩いて行ったと。
行くが行くが行くと、道の向こうから三人の爺(じい)さがなにやら話しながらやって来て、すれちごうた。すれちがうときに
「今も言うたとうり、今どきの子供は親の助けをするような孝行者(こうこうもの)はのうなった。ほれ見てみい。親に馬ぁ曳かせて、子が楽しょる」
と言うて、あきれたと。
お父と息子は恥ずかしくなった。そこで、息子が馬から降り、今度はお父が馬に乗って息子が曳いて行ったと。
そしたら、道の脇で畑仕事をしていた婆(ば)さと嬶(かか)さが、
「親が楽しそうに乗って、子供に曳かせて」
と言うて、あきれたと。
お父と息子は恥ずかしくなって、それもそうじゃと、今度は息子も馬に乗せて、カッポリ、カッポリ歩んで行ったと。
そしたら、道の向こうで遊んでいた子供たちが、道をあけながら、
「一頭の馬に二人も乗って、馬が可哀想(かわいそう)じゃ」
「可哀想じゃ」
と、口々に囃し(はやし)たてたと。
お父と息子は恥ずかしくなって、
「それもそうじゃな」
と、二人とも馬から下りたと。
今度はどうしたらいいかと考えて、親子して馬の脚(あし)をくくり、中に棒を通して、二人して担(かつ)いで行ったと。
ふうふういいながら担いで橋を渡っていると、橋の向こうの詰(つ)めに、たくさんの人が足を止めてこのさまを見ておった。
そのうち、誰かが何かを言うたらしくて、みな大声をあげてどっと笑うたと。
すると馬はこの声に驚(おどろ)いて、
「ブヒヒ、ブヒヒ」
とあばれたと。
そのひょうしに足を縛(しば)っていた縄が切れて、馬は橋の下に落ち死んでもうたと。
むかしまっこうたきまっこう、たきからこけて猿のつびゃぁぎんがり。
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昔、日向の国、今の宮崎県西都市に正右衛門という狩人があったげな。正右衛門は猪撃ちの狩人でな、山に入ると猪の気配を感じるじゃろか、犬の放しどころに無駄がなかったちいうぞ。
昔、あるところに、人の住まない荒(あ)れた屋敷(やしき)があったそうな。何でも昔は、分限者(ぶげんしゃ)が住んでいたそうだが、どうしたわけか、一家みな次々に死に絶(た)えてしもうて、そののちは、だあれも住む人もなく、屋敷と仏壇(ぶつだん)だけが荒れるがままの恐(おそ)ろしげになっておった。
「親子と馬」のみんなの声
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