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おしょうさんとごくらくぶろ
『和尚さんと極楽風呂』

― 香川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんが一人おったと。
 あるとき和尚さんは、法事(ほうじ)に呼ばれて、一軒(いっけん)の貧(まず)しい檀家(だんか)に行ったと。
 お経を読んで法事が終わったら、その家のおっ母(か)さんが、
 「私ン家(ち)はこのとうりの貧乏家ですから、何のおもてなしは出来ませんが、せめて思うて、お風呂の用意ができておりますから、どうぞお入りになって温(ぬく)もうて下さい」
というたと。そして子供を呼んで、
 「お湯かげんはな、ぬるかったら焚(た)いてあげるんだよ」
と言いつけたと。


 和尚さんは、
 「それは何よりのごちそう。ナムナム」
というて、着物を脱(ぬ)いで入ったら、お湯がぬるかったと。それで風呂の中から、外の焚(た)き口にいる子供に、
 「少しぬるいから、火を焚いてくれんか」
というたと。そしたら子供が、
 「焚くもんが無い」
というから、
 「焚くもんがなかったら何でもええわ。その辺の物を何でも燃(も)やしてくれ。寒うていかん」
いうてやったと。
 子供は、そこここからいろんな物を集めて燃やしたと。

 湯がだんだんぬくうなって、和尚さんは、
 「ごくらく、極楽(ごくらく)」
というて、気持ち良さそうに湯につかっておったと。


 「ええ湯かげんだった」
というて出て来たら、着物が見あたらん。

 「…たしか、ここへ脱いで置いたんだが……。
 「ここにあったわしの着物、どうしたんか。どこかにしまってくれてあるんか」
と子供に聞いたら、子供はすまして、
 「いいえ、和尚さんが『何でもええから燃やしてくれ』いいましたから焚きました」
というたと。

 「ありゃあ、なんとわしの衣(ころも)を焚いたか。どうりで極楽のはずじゃ」
と、こういうたところへ、この家のおっ母さんが、奥から、
 「温(ぬく)うなられましたか」
というて、来る気配(けはい)がした。


 「こりゃいかん」
 和尚さん、あわてて手ぬぐいを前に当てがっておろおろしたと。
 子供がごぼうの葉を二、三枚むしって来て、
 「和尚さん、これ」
というて差し出したら、和尚さん、それを受け取って、前後(まえうしろ)に当てがって、ほうほう、というて帰っていったと。
 
 さん候(そうろう)。

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