― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに爺(じい)と婆(ばあ)がおったと。
あるとき、爺は山へ木を伐(き)りに行ったと。
ガッキン、ガッキン木を伐って、飯時(めしどき)になったので、薪(まき)の上に座って、そば餅を食おうとした。すると、はつかねずみがちょろちょろと穴から出て来たと。
「おお、かわいいねずみだ。お前も食うか」
というて、そば餅をち切ってやったと。
挿絵:福本隆男
ねずみは、そば餅を食わえて穴に入って行き、しばらくすると、また出て来て、
「さっきのそば餅、うまかった。こんどはおれもごちそうするから、おら方(ほ)さ来てけろ」
というた。爺が、
「あんな小っさい穴に、どうやってわしが入っていける」
と聞いたら、ねずみは、
「眼(まなぐ)つぶって、おれの尾っぽさつかまって呉(け)さい」
という。
爺が、ねずみの尾っぽにつかまって、眼をつぶると、どこをどう潜(もぐ)ったのか、ねずみの家へ着いたと。
ねずみの家は、大きな構えの家であったと。
庭では、たくさんのねずみたちが、
百になっても 二百になっても
ニャンゴの声コば 聞きたくねえ
トントン カンカン
トントン カンカン
と、こんな唄をうたって餅を搗(つ)いておった。
あっちの方では、
孫 ひこ やしゃごの代まで
猫の声コば 聞きたくねえ
と唄いながら、これは粟餅(あわもち)を搗いている。
爺が面白がって見ていると、さっきのねずみが、
「爺、爺は本当にニャンゴと言わねえな。おらたち、そいつが一番おっかねえからな」
という。爺が、
「ああ、言わね」
というと、ねずみはほっとして、いろんなごちそうを並べてもてなしてくれたと。
帰るときには、土産に、銭コまでどっさりもらったと。
(爺は、また、ねずみに送られて、ねずみの尾っぽにつかまって、眼閉じているうちに、元のところへ帰り着いたそうな。)
爺と婆は、ねずみにもらった銭コで、うまいものを買うて、ぬくい着物(べべ)もこしらえて、毎日が楽々暮らせるようになったと。
あるとき、隣りの婆が、
「火種コひとつ、たんもうれ」
というて入って来て、目を丸くしてたまげたと。
「あれや、お前(め)どこは、おらどこと同じ貧乏たれだったのに、白いまんまに赤い魚(とと)そえて食っている。昨日に変わる長者の暮らし。こりゃまた、どういうわけだ」
と聞くので、爺は、わけを話してやったと。
そしたら隣りの婆は、
「おらどこも、あやかりてえ」
というて、火種をもらうのも忘れて、とって返したと。
次の日、隣りの婆はそばもちをこしらえて爺にもたせ山へおいやったと。
隣りの爺も山で木を伐って、昼飯どきになったら薪に腰かけて、そば餅を食ったと。
すると、ほんとにねずみが出て来たので、そば餅をぶっつけるように投げてやったと。
ねずみが、
「おらほへ来て呉さい」
というので、ねずみの尾っぽにつかまって、眼をつぶっていたら、間もなく、ねずみの家に着いたと。
ねずみの家の前には、たくさんのねずみが集まっていて、
百になっても 二百になっても
ニャンゴの声コば ききたくねえ
トントン カンカン
トントン カンカン
と唄いながら、にぎやかに餅を搗いていた。
隣りの爺があたりをキョロキョロ見まわしていると、先程のねずみが、
「爺、爺はニャンゴと言わねえな、そいつが一番おっかねえからな」
という。爺は、早く銭コが欲しいから、
「ニャンゴー」
と、猫の鳴き真似をしたと。
そしたら、そのとたんに、あたりが真っ暗闇になって、ねずみたちは、わっと逃げ失せたと。
隣りの爺は、これさいわいと、手さぐり、足さぐりで、そこいらにあった銭コだの宝物だのを持ちかかえた。
外へ出ようとしたが、どうしても出口がわからない。
ねずみの穴の中を、あっちこっち、もくもく掘っているうちに、隣りの爺は、とうとうもぐらもちになってしまったと。
どっとはらえ。
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