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えがみにょうぼう
『絵紙女房』

― 秋田県秋田市 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔、あったずもな。
 ずっと山奥(やまおく)に、父(てて)も母(あば)も死んでしまって男わらし一人、炭焼(すみや)きなっていであったと。
 年のころ二十一もなったども、あまり貧(まず)しぐで嫁(よめ)コに来る人もいねがったど。
 だども、その男、大した信心深(しんじんぶか)くて、秋の彼岸(ひがん)さなったきゃ、お寺詣(まい)りに行ったど。
 して、本堂さ上って如来様(にょらいさま)の前さ行って一生懸命(いっしょうけんめい)拝(おが)んであったきゃ、横の方 に大したきれいだ女子(おなご)の絵紙(えがみ)、貼(は)ってあるのだど。それ見たば欲しくなって、その男、
 「和尚(おしょう)さん、和尚さん、俺にあの絵紙、呉(け)らいねべか」
て言ったど。
 

 
絵紙女房挿絵:福本隆男

 「呉らいねども、お前(め)さ貸してやる」
て、和尚さん言ったば、男おが喜(よろこ)んでその絵紙どこ家(いえ)さ持って帰って、わ 飯(めし)食えば飯供(そな)えるし、わ 茶コ飲めば茶コ上げるして、大事に大事にしていたど。


 して、五年たったど。

 ある日、炭焼きの釜(かま)がら上って来たきゃ、家の中がら煙(けむり)出はってくるの見えだど。おがしなぁど思って、家の中そっと覗(のぞ)いて見たば、なんと、絵紙の女子、一生懸命(いっしょうけんめい)タスキがけで働(はたら)いてるなだど。
 男ハァ嬉しぐで、嬉しぐで、なもかもならねぐなって、その女どこ嫁コにしだど。
 大した仲の良い夫婦(ふうふ)で、して、男わらしも生まれて、男もますます働いたど。

 それから五年たったど。

 ある日、炭焼き釜から帰ぇるの遅ぐなって、晩(ばん)げ、山道急いで歩いてたば、家の近ぐなって、男わらしの泣き声聞こえだ。なにごとだべと家の中さ入って見たば、なんと、あの絵紙の嫁コ、どこさ行ったもんだが、どこ訪(たんね)でも居ねのだど。 

 
 男ハァ、泣ぐ子と一緒なて何ともしゃあ無ぐていたども、また彼岸来たもんで、粉っコ搗(つ)いて団子(だんご)作って重箱(じゅうばこ)さ入れてお寺さ行ったど。
 して、本堂の如来様の前さ行ったば、何とあの絵紙、でんと掛がってるなだど。
 それ見たば、男もわらしもオイオイ泣いたど。
 したば、その絵紙シャ、
 「そんたに悲しむ事だばねぇべ。俺(おれ)だば、今からいつでもここに居るから、会いたぐなったばいつでも来い」
て言って、また元の絵紙なってしまったど。
 
 とっぴんぱらりのぷう。

「絵紙女房」のみんなの声

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