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かねがみさま
『金神様』

― 山形県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかしあったけど。
 あるところに若(わか)い夫婦(みょうと)がいてあったと。

 夫(とと)なる男は大層(たいそう)臆病者(おくびょうもん)で、晩(ばん)げには外の厠(かわや)へ一人で小便(しょうべん)にも行けないほどだと。
 妻(かか)は夫の臆病を治(なお)してやるべとて、夕顔(ゆうがお)のでっこいのを六尺棒(ろくしゃくぼう)に吊(つ)るして門口(かどぐち)さ立てておいたと。
 その晩げ、夫が妻ば呼(よ)ばって厠までついて来てけろ、と言うので、妻は、
 「悪(わる)いども、今日は一人で行って呉(け)れ」
と言うた。

 
 夫が仕方(しかた)なく外へ出ると、真っ暗(まっくら)な門口で、でっこい何やらが立ちふさがって通せんぼしていた。ヘナヘナァと腰(こし)くだけて、
 「お、大入道(おおにゅうどう)だぁ」
と叫(さか)んだと。
 妻は、うふふと笑(わら)って門口さ行き、
 「よく見ろず、夕顔だ、ほれ。恐(こわ)い、恐いと思うから妙(みょう)な物に見えるんだ。この世(よ)の中さ、化(ば)け物なのいないんだ」
と、言うてきかせたと。
 それからというもの、夫は妻の言うことを信(しん)じて、
 「恐くない、恐くない。化け物はいない、化け物はいない」
と唱(とな)えるようになり、だんだんに臆病でなくなったと。

 
 その頃(ころ)、向(む)かいの山で毎晩(まいばん)げ、怪(あや)しげな光がボオーッと灯(とも)っておったと。
 村の人たちは寄(よ)るとさわると、
 「狐火(きつねび)だべか」
 「いや、鬼火(おにび)でねか」
 「人魂(ひとだま)かもしんね」
と噂(うわさ)し合(お)うていた。けれど、気味悪(きみわる)がって誰(だれ)も確(たし)かめに行かん。
 夫なる男が、
 「ほんじゃ、俺(おれ)が見届(みとど)けてくるべえ」
と言うた。皆は、
 「やあ、臆病者が大口(おおぐち)たたいた」
と言うて、ゲラゲラ嘲笑(わら)ったと。
 嘲笑われても夫は向いの山をガサラ、ゴサラ分け入って登(のぼ)って行った。
 そしたら大っきな松(まつ)の木があって、その傍(かたわ)らに小っさな小屋(こや)があった。光はその中から灯っていたのだった。


 小屋の内(なか)には一人の婆(ば)さんがいて、苧桶(おおけ)を構(かま)えて苧績(おう)みしていだったと。
  夫が入って行って、
 「毎晩げ光が灯っていたのは、あんたの仕業(しわざ)だったか」
と訊(き)くと、
 「やれやあ、やっと来たか。わしは金(かね)の精(せい)だ。この下に金の入った瓶(かめ)が埋(う)まっている。埋めた者も絶(た)えた。それから随分(ずいぶん)長い間埋まったままだった。誰かに見つけてもらいたくて光を出していたが、恐がってか、誰も来んかった。金はお前に授(さず)ける。明日、ここの下を掘(ほ)ってみろ」
と言うた。
 
 そして婆さんは、
 「これでおれの願いも叶(かな)った」
と言うて、たちまち光の尾(お)を引いて夜の空を飛(と)んで行って終(しま)ったと。

 
 夫は、その場所へ一本の柴(しば)を差(さ)して帰り、妻さ、
 「あいつは金神様だった」
と語(かた)ったと。
 
 次の朝、早くに起(お)きて妻と向いの山さ行くと、昨日(きのう)の小屋は無(な)くなっていて、差しておいた柴が一本あったと。
 そこを掘ると、大っきな瓶(かめ)があって、中には大判小判(おおばんこばん)がぎっしりと詰(つ)まっていたっけど。
 それを持ち帰り、臆病者だった夫と、それを治した妻は、一生(いっしょう)福々(ふくぶく)しく暮(く)らしたと。

  とうびん。

「金神様」のみんなの声

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楽しい

お話のないようもわかりやすかったのでよみやすかたです。( 10歳未満 / 女性 )

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