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とんびふこう
『鳶不幸』

― 静岡県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに、とんびの親子がおったそうな。
 子とんびはヘソ曲りの子であったと。
 親が、「山へ行け」と、言えば海へ行き、
 「海へ行け」と、言えば山へ行く。
 「今日の食べ物はおいしい」と、言えば「まずい」と、言って、いつもあべこべばかりしていたそうな。
 そのうち、親とんびが、重い病(やまい)にかかって死にそうになった。
 「はぁて、おらはもうじき死ぬ。死んだらば山に埋(う)めてもらいたいが、あの子は何でもあべこべにする子だからなあ」
 こう思った親とんびは、子とんびをそばに呼んで、
 「おらが死んだら、海へ投げこんでおくれ」

 と、ゆいごんして死んでいった。


 さて、死なれてみて、はじめて親のありがたさが分(わか)るようになった子とんびは、
 「ああ、おら、親が生きとるうちは、ぎゃくばかり言ってさんざんこまらせたなあ。せめて、最後のたのみだけはきいてやろう」
と、言って、言いつけどおり親を海へほうりこんだ。
 ところが、親が、年がら年中海で水びたしになっているかと思うと、かなしくてたまらない。
 子とんびは、泣き泣き暮らしているうちに、
 「そうか、山の静かなところへ埋めて欲しかったんだ。きっとそうだ」
と、ようやく気がついた。
 「海が引いたら親を拾ってきて、今度は山へ埋めよう」
 そう思ってな。


 海の水早よ引け
 早よ引け
 うみん ひいよひょう
 うみん ひいよひょう

 と、鳴きながら、今でも親を慕(した)って捜しまわっているのだそうな。


 -鳶不幸解説-
 このトンビの子は君ににていませんか。たいていの大人は、かつて子供だったころ、親にさからった経験を持っています。
 だからこそ、いっそう印象ぶかく、全国各地で語られてきました。
 お話の主人公には、トンビの他に、雨蛙、山鳩などがなっている話もたくさんあり、いずれも天候の変化にかかわりがある話になっています。
 
 それにしても、トンビのなき声を、「ウミンヒーヨヒョウ=海の水早よ引け」と、聞いた昔の人は、なんてすてきな詩人の耳を持っていたんでしょう。そう思いませんか。

「鳶不幸」のみんなの声

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