― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある秋のいい日和(ひより)のこと、貧しいひとりの若者が、小銭を持って塩を買いに出かけたと。
すると、その途中(とちゅう)で、子供たちが蜂(はち)を捕(つか)まえて、その尻に糸を結(ゆ)わえて、ブンブンと飛ばして遊んでいた。若者は、
「ほだなことして、かわいそうでねえが。放してやれ」
といったが、いたずらっ子たちは聴くもんでない。
「ほんなら、これをやるから放してやれ」
といって、持っていた小銭を子供たちに分けてやったと。
子供たちは、蜂を結わえた糸を若者に渡すと、どこかへ駆(か)けて行ったと。若者は、
「ほら、放してやんぞ。こんど捕(つかま)ったら殺されてしまうべがらな」
といって、糸をほどいて、逃がしてやった。
蜂は、若者の頭の上を二度三度飛びまわると、そのままどこかへ飛んで行ったと。
若者は塩を買う銭が無くなったので、何とも仕方がない。ただぶらぶらと村はずれまで歩いて来た。そこにはグルリと高い塀をめぐらせた村一番の分限者の家があって、ふと見ると、その家の門のこころに立札がしてあった。
『裏山の杉の木を数えた者には、一人娘の聟に迎える』
と書いてある。
「この金持ちの家の聟か、悪ぐはねえな」
若者は、裏の山に入って杉の木を数えはじめた。
「一本、二本、三本・・・えっと五十本・・・これで百本。うひゃあ、こりゃ大ごどだ」
数えても数えても数え切れないくらい杉の木立(こだち)が、広く奥深く続いている。
「こいづは、ハァとんでもねえこんだ。」
と、うんざりして帰ろうとしたら、どこからか飛んできた一匹の蜂が、若者の耳元で、
三万三千三百三十三本 ブーンブーン
と、繰り返し、繰り返し、うなるんだと。
「おやっ、この蜂ぁさっきの蜂かな。三万三千三百三十三本っていうのは、この山の杉の木の数のことだべか。恩返しにおらに教えて呉(け)たんだな」
若者は急に元気を取り戻して、分限者の家に行くと、なかから主人が出て来た。
「立札に書いてあること、本当だかや」
「ああ、本当だ」
「おら、杉の木の数を数えただ」
「ほお、お前さんがあの杉の木を全部数えたとな。今までも何人もの若者がお前さんのように言うて飛びこんで来たがの、みんな当てずっぽうのでたらめじゃったぞ」
「おらのは本当だや」
「ほう、そんなら一体何本あったな」
「三万三千三百三十三本」
「や、何というた」
「三万三千三百三十三本、というた」
「当った。こいづは驚いた。うーん、よくぞ数えた。だが、それだけでは未だ聟には決められん。娘は一番奥の座敷に居るから、次々と座敷を抜けて、みごと娘に会えたら、聟に迎えよう」
若者は長い廊下を歩いて初めの座敷のふすまを開けたと。
すると、その部屋には大小無数の蛇がウヨウヨいて、鎌首をもたげて若者を睨(にら)んでいる。
おもわずたじろいでいると、蜂が飛びこんで来て、
ここ開けろ ブーンブーン
と、別のふすまを教えてくれた。そこを開けると何も無い座敷で、通り抜けて次を開けると、今度は気味の悪い蟇蛙が足の踏み場もないほどいたと。
若者が困っていると、また蜂が飛んで来て、
ここ開けろ ブーンブーン
と、別のふすまを教えてくれた。その通りにすると、また何も無い座敷で、通り抜けて次を開けると、今度は大きなナメクジがいっぱいいたと。
若者が気味悪るがっていると、またまた蜂が飛んで来て
ここ開けろ ブーンブーン
と、別のふすまを教えてくれた。
そのふすまを開けると何も無い座敷で、通り抜けて次を開けると、そこには美しい娘がひとりいて、にっこりほほ笑んで若者を迎えてくれたと。
若者はめでたく聟になって幸せに暮らしたと。
どんべすかんこねっけど。
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昔、日向の国、今の宮崎県西都市に正右衛門という狩人があったげな。正右衛門は猪撃ちの狩人でな、山に入ると猪の気配を感じるじゃろか、犬の放しどころに無駄がなかったちいうぞ。
「蜂の援助」のみんなの声
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