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たろうのふえ
『太郎の笛』

― 三重県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 ずっと昔、父(とと)さんと母(かか)さんと赤ン坊の太郎が暮らしておったんやて。
 父(とと)さんは横笛づくりでは二人とない名人じゃったが、気が向かないと、ちょっとも仕事をしよらんお人で、暮らし向きは良うなかったんやて。
 したが、母さんは愚痴ひとつこぼさん優しいお人で、太郎は錦にくるまれるように育ったんやて。
 この母さんが、太郎が二才の時、急の病(やまい)でぽっくり亡くなってしもうたんやて。
 「幼児を抱えてじゃあ、この先、お前さんにも赤児にも良くない」 と、世話してくれる人がいて、父さんに後添(のちぞ)えが来たんやて。そうして、次郎と三郎が生まれた。 

 
 それから十二、三年も経ったろか、太郎は死んだ母親にますます似て来て、心が優しゅうて、かわいらしかったけど、身体が細うて弱々しかったげな。

 後添えの母さんは気の強い女子(おなご)で、むごいことを平気でする質(たち)だった。暮らしが相変らず良うのうて、一人でも口減(くちべ)らししたくって、万事、継子の太郎につらくあたるんやて。
 次郎と三郎も継母に似て、頑丈で気が強い性(しょう)じゃったんやして、二人がかりで、いつも太郎をいじめてばかりおったんやて。 

 太郎はつらいことがあると、夕暮れ頃、家をソッと抜け出して裏山へ行くんやて。そこには死んだ母さんのお墓があった。


 お墓の横に大きな松の木が一本あって、上の方に、横に延びた枝の股があって、太郎はこの枝の股に腰掛けて、横笛を吹くのが好きじゃった。
 太郎がいつも腰に差している横笛は、死んだ母さんの大事にしとった形見の品じゃった。父さんが母さんと世帯を持って最初にこしらえた笛じゃった。


 まっ赤に沈む夕陽に照らされながら、鳥たちが塒(ねぐら)に帰っていくのをながめ、
 「おらも鳥になりてえ。鳥になって、夕陽の向こうの母さんのところへ行きてえ」
と、気持を込めて吹くと、哀しく、優しく、なんとも言えん澄んだ音色がしたんやて。

 村のすみずみまでいきわたり、村人は、
 「ああ、今日も太郎の笛が聞こえる」
と、耳をすますのやて。そして、誰しもが自分の母さんを思い出さずにはおられんのやて。
 そんな不思議な横笛じゃったから、その横笛を欲しいという人が大勢あった。

 次郎と三郎が相談して、高う売ろうと、太郎が眠っているときにその横笛を盗(と)ったんやて。
 「俺らが売る」「いや俺らが」って、奪い合いしたもんで、横笛が、真ん中からポキッと折れたと。


 笛の中から、丸めた紙が出て来たんやて。広げてみると、太郎の死んだ母さんの似顔絵じゃった。継母のおらんとき、父さんに無理にせがんで画いてもらったものだった。
 笛を吹くときは取り出してながめ、吹き終えると、また、笛の中に丸めて差し込み、かくしておいたんやて。
 太郎は笛を折られたんで、それからは、母さんの似顔絵ばかりながめとった。
 何も食べんようになって、やせ衰えて、とうとう死んでしもうたんやて。
 継母も次郎も三郎も、はじめて、
 「悪かった、悪かった」
と、泣いて悔いたんやて。 太郎の亡きがらは、太郎がいつも笛を吹いていた松のとなりの母さんの墓に、似顔絵と父さんが元のように接(つ)いだ横笛を添えて、一緒に埋めたんやて。

 
 村の人々は、太郎が母さんと一緒なので、もう笛を吹かなくてもよくなったと言っとったんやて。
 笛の音は聞こえなくなったが、こんな話が残った。

「太郎の笛」のみんなの声

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太郎が可哀想。( 40代 / 男性 )

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