― 富山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある山奥(やまおく)に村があったと。
その村から、険(けわ)しい山坂をいくつも登ったり下ったりしたふもとに、お城下町(じょうかまち)があったと。
山奥の村からお城下町へは二日がかりだと。
あるとき、山の者(もん)が村の用事を頼(たの)まれてお城下町へ出たと。 頼まれたいろいろの用事をたして、町を歩いていたら魚屋の前を通りかかった。
たくさんの魚が店先にならんでいる。村の人に久し振りに海の魚を食べさせてやろうと店の前に立った。
あれこれと見ていたが生きのよさそうな鮭(さけ)を買うことにしたと。
「どっでも(どれでも)いいさかい、一本ワラズトに包んでくれっしゃい。」
というた。
店のおやじは、
「へい、まいど」
といいながら奥から出てきて客を見ると、客はミノをきて、腰(こし)には木の皮で編(あ)んだどうらんを下げ、背負(しょい)こに荷物をいっぱいつけていた。
「ハハァン。こりゃ山奥の者じゃな。海の魚なんぞめったに食べんまい。 よし、一番小っちゃいやつを高く売りつけてやろ」
と思うた。
そこでまず、鮭の一番大きいやつを持ちあげて、
「おい鮭、おまえや、この山の父(と)っとと一緒に行くか」
と言葉をかけ、
「ふんふん、いやか、そうか」
と、いかにも話をしているように見せかけた。
次に大きい鮭を持ち上げて、また、
「おい鮭、おまえや、この山の父っとと一緒に行くか」
「ふんふん、お前もいやか。そうか」
というて、次々に同じ問答(もんどう)をしていき、終(しま)いに、一番小さい鮭を持ち上げて、
「弱ったことになったわい。おい、お前やどうじゃい。がまんして、この山の父っとと一緒に行ってくれんかい」
「なになに、ふんふん、いやか。そんなこというたかて仕方ないちゃ。おおっ、じゃ行ってくれっか。よっし、よっし」
と、やっと納得(なっとく)させたように見せかけて、
「旦那(だんな)、他のやつみんな嫌じゃ言うとりますが、こいつだけ行く言うとりますちゃ」
と笑いながら、一番小さい鮭をワラズトに包んだと。
それを受けとった山の者は、
「そっかそっか、いや、たいへんお世話さんじゃった」
といって、懐(ふところ)から財布(さいふ)を取り出し、まずッザクザク音をさせてみた。それからお金を出して、
「おい銭(ぜに)や、おまえや、この魚屋にもらわれてお城下におる気はないかい」
と言葉をかけ、
「ふんふん、いやか、そうか」
と、いかにも話しているように見せかけた。
次にまた少し高いお金を取り出して、
「おい銭や、お前はどうする。この魚屋にもらわれて、お城下(じょうか)におる気ないかい」
「ふんふん、お前もやっぱり嫌か。そうかそうか」
それから次々に同じ問答をして行き、おしまいに一文銭(いちもんせん)をとり出して、
「弱ったことになったわい。お前やどうじゃい。がまんしてこの魚屋にもらわれてくれんかい」
「ふんふん、いやか。そんなこと言うたかて仕方あんまい。おおっ、じゃお城下におってくれっか。よっしよっし」
と、さも合点(がてん)したといわんばかりに、
「おやっさま、他のやつ、みな嫌じゃというとるが、こいつだけお城下におるというとりますて」
というて、一文銭渡すと、さっさと店を出て、山の奥へ帰って行ってしまったと。
これでばっちり柿(かき)の種。
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むかしあったと。 ある村のはずれに、化け物が出るというお寺があった。 村の人達はおそろしいもんだから、誰(だれ)もそのお寺には近づかないようにしていた。
「山の者と町の商人」のみんなの声
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