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しんじんばさまとよくふかおしょう
『信心婆さまと欲深和尚』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志

 むかし、あったけど。
 あるところに、貧(まず)しいけれど、信心深い婆(ばあ)さまが住んでおった。
 婆さまは、死んだらば、地獄(じごく)には行きたくねぇ、なんとか極楽に行きたいと思うて、毎日、毎日、お寺参りをしたんだと。
 それはそれは、一生懸命(いっしょうけんめい)に仏(ほとけ)さまに手を合わせて、お経(きょう)を唱えたと。
 婆さまは、お寺に行くと、ふところから一文銭(いちもんせん)を出して、ポーンとさい銭箱に投げ入れる。そして、お願いがすむと、手に握(にぎ)っている糸をたぐり寄(よ)せ、一文銭をさい銭箱から釣(つ)りあげると、
 「仏さま、すんません」
と言うて、家に帰って行くんだと。


 寺の欲深和尚(よくふかおしょう)は、婆さまが寺から出ると、すぐにさい銭箱を開けて見るが、いっつも、銭は入っておらん。
 「あの、ばばぁめ、毎日毎日、仏さまにお願いをするくせに、一文もさい銭を入れん。あんなばばぁ、極楽なんかやるものか。地獄におちればええ」
と、くやしがっておった。

 ある日のこと。
 和尚は、仏さまの後ろに隠(かく)れると、婆さまの来るのを待っていた。
 そして、婆さまがやって来ると、大きな声で、
 「ばばよ。わしは阿弥陀仏(あみだぶつ)じゃ。極楽に行きたくば、わしの言う事をきけ」
と言うた。
 「は、はい。仏さまの言われることなら、何でもききますだ」
 「よーし。では、まず、寺の池の中にある島にわたり、松の木のてっぺんに登れ」
 婆さまは、仏さまの言うことを信じて、汗(あせ)をかきかき、ようやく松の木のてっぺんへ登った。


 和尚は、婆さまのあとをついてゆき、松の木の下から、
 「ばばよ、左の手を離(はな)せ」
と大声で言うた。
 婆さまは、言われた通り、左の手を離した。
 「ばばよ、右の手も離せ」
 今度は右の手も離した。
 婆さまは池の中にまっさかさま。と思うたら、サッと金色の雲が婆さまを受けとめ、そのまんま空高く昇(のぼ)っていったんだと。

 
信心婆さまと欲深和尚挿絵:福本隆男
 
 さあ、欲深和尚はたまげた。
 わしも、婆さまのように金色の雲に乗って極楽に行きたい思うて、すぐに寺の小僧(こぞう)を呼(よ)んだ。
 そして、さっき婆さまに言うた通りのことを小僧に教えこんだんだと。


 小僧は、さっそく、仏さまの後ろに隠れると、
 「和尚よ、わしは阿弥陀仏じゃ。極楽に行きたくば、わしの言う事をきけ。まず、池の中にある島にわたり、松の木のてっぺんに登れ」
 和尚はうれしくて、うれしくて、スイスイ松の木に登った。
 小僧が松の木の下から、
 「和尚よ、左の手を離せ」
と言うと、左の手を離した。
 「和尚よ、右の手も離せ」
 和尚は、ニタリッと笑って右の手も離すと、そのまんま、池の中にドボーン。
 和尚は、もがきながら、ブクブク、ブクブク、池に沈(しず)んでしもうたと。
 
  どっとはらい。

「信心婆さまと欲深和尚」のみんなの声

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