いやあ恐ろしい。ただ、彼女の姿は美しい。( 10代 / 男性 )
― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 和田 寛
再々話 六渡 邦昭
むかし、和歌山県(わかやまけん)は里野(さとの)というところに、いそ女というものがおったそうな。
いそ女は、この世の者とは思えない美(うつく)しい娘姿(むすめすがた)で、夜になると海の近くの岩山(いわやま)の上にあらわれ、髪(かみ)の毛(け)をすきながら、美しい声で歌をうたうのだと。
ある夜のこと。
この岩の近くを通った船に歌声が聞こえて来たそうな。
「だれだろう。こんな夜更(よふ)けに歌をうたっているのは。それにしても、なんときれいな声だろう」
「やや、あんなところにおる」
「美しげなことよ」
「妖(あや)しげなことよ」
船乗りたちは口々(くちぐち)に言い合(あ)いながら、船を近づけていった。
娘の長い黒髪(くろかみ)は、下の海面(かいめん)まで届(とど)き、一層(いっそう)妖しげに見える。
そのうち、はたっと歌声が止(や)んだ。娘は、ひょいと振(ふ)り返(かえ)り、月の光にてらされた青白い顔で、ニイッと微笑(ほほえ)むのだと。そして、手を差(さ)し出して船をまねくのだそうな。
すると、不思議なことに、船はひとりでに岩山に向(む)かって進(すす)みはじめた。
「あぶない、気をつけろ」
「岩に近づくな」
「早く船をこげ」
船乗りたちは、口々に叫(さけ)び、懸命(けんめい)に船をこいだが、船の向きを変えることが出来ん。
とうとう、岩穴に吸(す)い込まれて終(しま)った。
次の朝、岩穴から船は吐(は)き出された。しかし人の姿は、誰(だれ)一人として見当(みあ)たらなかったそうな。
こんでちょっきり 一昔(ひとむかし)。
いやあ恐ろしい。ただ、彼女の姿は美しい。( 10代 / 男性 )
昔、あるお寺に一人の和尚がいた。あまり裕福でもないので小坊主も置けないから、一匹の蛇をあずかって置いた。いつも外出するときには、蛇に今出て行くと告げるし、帰って来れば、また帰ったと言う
「磯女」のみんなの声
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