― 鳥取県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭
とんと昔。
ある村に爺(じ)さまと婆(ば)さまが暮らしてあった。
婆さまが木綿(もめん)の布を織り、爺さまが町へ売りに行っていたと。
ある年の暮れのこと。
爺さまが布を背負って町へ売りに行くと、途中で雪が降ってきた。だんだん雪は降り積もり、歩くのも難儀(なんぎ)になったと。それでもようやく村境(むらざかい)までくると、小っこいお地蔵さまが雪をかぶって、せつなげに立っておらした。爺さまは、
「おうおう、ほんに可哀(かあい)そうになぁ」
言うて、頬被(ほおかぶり)の手拭(てぬぐ)いをはずして、お地蔵さまの頭の雪を払い、肩の雪を払い、鼻の穴の雪まで落としてやったと。
それでも寒そうなので、今度は売り物の木綿の布で、お地蔵さまをぐるぐる巻きにした。
布の上に雪が降り積もった。
爺さまは、お地蔵さまをエンヤラヤと背負(おぶ)って、来た道を戻ったと。一歩、一歩、また一歩と歩いて、ようやく家に着いた。
「婆さま、今帰った」
「ご苦労さん。布は売れたかいね。あやぁ」
「うん。村境のお地蔵さまだ。雪に降られてあんまり可哀そうなもんで、お連れした」
「その巻いてある布は」
「うん。婆さまのだ」
「あやぁ。売りもんの木綿がだいなしじゃねぇか。これを売らなきゃ、正月支度が出来んというのにぃ」
婆さまは、ふくれっつらだと。
爺さまは、すまなさそうな顔をしながら、囲炉裏(いろり)のそばにお地蔵さまを下ろすと、どんどと火を焚(た)いて、あたためもうした。腹をあぶったり、背中をあぶったりしもうしたから、雪にぬれていたお地蔵さまは、だんだん温(ぬく)くなって、そのうちにすっかり乾(かわ)いたと。
そうしたら、お地蔵さまの鼻の穴から、ポトリ、ポトリ、ポトリ、ポトリ、何やら白い粒が落ちてきた。爺さまが、
「はて、何じゃろ」
と、拾うてみると、それは米粒だった。
「婆さま、婆さま、ちょっと来おい。このお地蔵さまの鼻の穴から、米が出てきとるぞぉ」
婆さまがあたふた囲炉裏のそばへ来てみると、いっぱい落ちている米粒を見て、
「爺さまや、いいお地蔵さんだなぁ」
言うて、米粒を拾いはじめたと。拾うて拾うて拾うているうちに、婆さまは、
「もっといっぺぇ米が出んかなぁ」
と欲を出した。
「そうだ、鼻の穴を拡(ひろ)げちゃろ」
こう思案した婆さまは、爺さまがよそ見をしたすきに、火箸(ひばし)を囲炉裏の火の中にこっそり入れた。
しばらくして、また爺さまがよそ見をしたすきに、真っ赤に焼けた火箸をお地蔵さまの鼻の穴に、ブスリッと突き刺した。気配(けはい)を感じた爺さまが、
「あやぁ、婆さま、何ちゅう罰(ばち)当たりなことする」
と、止めようとしたが、遅かった。
火箸を鼻に刺されたお地蔵さまは、かなしげな顔をして、それからは一粒も米を出さなかったそうな。
昔 こっぽし。
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「地蔵さまと爺婆」のみんなの声
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