― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに蓮(はす)の葉がいっぱい植(うわ)っている池があって、蛙が一匹おったと。
蛙は蓮の葉でお寺を建てて、そこで毎日毎日、ゲエロゲエロとお経を詠(よ)んでいたと。
ある朝、蛙が、
「蓮の花、今日はなんぼ咲くかなあ、咲いた数だけ弔(とむら)いせにゃならんから、あんまり咲いて欲しくないなあ」
と言いながら池の中を見廻(みまわ)ったら、五つ咲いたと。
「ありゃあ、今日は五つも弔いをせにゃならん。こりゃ、くだびれそうじゃ」
と言っているうちに、もう、モグラの奥さんがやって来た。
「おらえの父(とう)さんがコロッと死んだから、弔ってくれ」
蛙が、 「ゲエロ、ゲエロ、ギャ―、ナンマンダ―」
とお経を詠んでやったら、
「坊(ぼう)さま、父さんが死んで、どこさ行くもんだべ」
と聞く。
「まんず、極楽浄土だべ。ナンマンダ―」
と言ってやると、モグラの奥さんは喜んで帰って行ったと。
次に来たのは、ヤマガラの母(かあ)さん。
「おらえの子供が巣から落ちて死んだ。弔ってもらいたい」
「ゲエロ、ゲエロ、ギャ―、ナンマンダ―」
「坊さま、その子はどこさ行くべか」
「子供は神の子仏の子、と言うから、これはお釈迦様の手の上さ、あがっていったべ」
ヤマガラの母さんも喜んで帰って行ったと。
二つの弔をして、ひと休みしようとしたら、間無(まな)しに、今度は、池の鯉(こい)の父さんがやって来た。
「土手の上さ鯉(こい)釣りが来て、嬶(かかあ)が釣られた。弔ってほしい」
と言う。蛙は、
「南無クタビレ阿弥陀仏ダ―」
と詠んだと。
「坊さま、嬶はどこさ行ったべな」
「あまりいやしくて、大きな口あいて食ったから、嬶はエンマさまさ行って、鍋さほうり込まれて煮られるなあ」
鯉の父さんは、シオラ、シオラ泳いで帰ったと。
今度こそひと休み、と、お供(そな)えの酒(さけ)を呑もうとしたら、そこへ、セミの弟がやって来た。
「兄ちゃんが猫にとられた。弔ってちょうだい」
蛙は、
「ナンム、ナンム、ナンム」
と短かく詠んだと。
「坊さま、兄ちゃんどこいった」
と聞いたら、
「猫に聞け」
と言ったと。
セミの弟は、ミ―ン、ミ―ンとベソかいて帰ったと。
「やれやれ、これで四つ弔った。今度は誰の番かな。飽(あ)きて来た」
と言いながら、やっと酒を呑んでいたら、そこへ、土手で遊んでいた子供が投げた石が、ヒュ―と飛んで来て、スコンと蛙に当ったと。
蛙は蓮の葉から転がり落ちたと。
腹を大っきくプクンとふくらまして、
「五つめはおれの番だったか、ナムアミダブツ、ナムアミダブツ」
と、一番ていねいに詠んで死んだと。
どんぺからっこねっけど。
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これは私のおばあちゃんが、おばあちゃんのおじいさんより聞いた話ながやと。そのおじいさんは、大工の仕事をしていたということやけんど、ある日の朝、家を出るとき、「今日は仕事を早じまいして去ぬるき、灯はいらん」いうて、
「蛙の坊さま」のみんなの声
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