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からたちひめこ
『からたち姫コ』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしむかし、あるところに爺(じ)さまと婆(ば)さまが住んでいたと。
 二人は、家の裏の畑に一本のからたちの木を植えて、それを子供替わりに大事に育てていたと。
 からたちの木は、春が巡(めぐ)って来ればきれいな白い花をつけ、秋になればかわいらしい小さな実をたくさんつけた。それはまるでミカンのような、丸い黄色い実で、二人はこれを眺(なが)めては楽しんでいたと。
  ある日のこと、爺さまと婆さまの家へ、町方(まちかた)の人がやって来て、
 「この、からたちの実っコ、売って呉(け)けんが」
と言うた。爺さまは、婆さまに、
 「いつも大事に育てて来たんだはで、売りたぐないが、銭(ぜに)コもほしいな」
と言うて、実を売ることにしたと。

 
 そこで、裏の畑から、からたちの実をもぎ取って籠(かご)に入れていたら、その中の一番大きな黄色い実が、
 「爺さま、爺さま。ちょっと待ぢで呉ろじゃ」
と言うたかと思うと、実は二つに割れて、中から、小さな女童(めわらし)コが顔を出したと。
 
からたち姫コ挿絵:福本隆男

 
 爺さまはびっくりして、婆さまを呼んで見せたと。そして、その女童コを指先でつまんで出してやると、名前を「からたち姫コ」とつけて、大事に大事に育てたと。
 からたち姫コは、ご飯をひと粒(つぶ)食べさせればひと粒分、ふた粒食べさせればふた粒分、大きくなって、やがて美しい娘コになったと。声もまるで鶯(うぐいす)のようであったが、不思議(ふしぎ)なことに、身体にはバラのようなトゲが生えていたと。
 あるとき、爺さまと婆さまは、用を足しに町へ出掛けたと。
 そこで、からたち姫コはひとりで裏庭に出てみた。すると、空に舞っていた一羽(いちわ)のタカがスーッと降りてきて、からたち姫コをさらって、どこへともなく飛んで行ってしまったと。
夕方になって爺さまと婆さまは帰って来た。
 からたち姫コの姿が見えないので、
 「からたち姫コオ、からたち姫コオ」
と、呼んでみたが、一向(いっこう)に返事がない。
 二人はがっかりしたと。

 
 次の日、二人は竹の杖(つえ)をついて、からたち姫コを捜(さが)しに出掛けたと。国々の隅(すみ)から隅まで捜して歩いたが、どうしても見つからない。二人は金比羅(こんぴら)さまに願(がん)をかけたと。
 そしたら、ちょうど満願(まんがん)の日に、
 「からたち姫コは、タカにさらわれた。今はミカン神のところにいる」
とのお告(つ)げがあった。
 そこで二人は、ミカン神のところへ訪ねて行ったと。行ってみると、からたち姫コは無事でいて、二人を喜(よろ)んで迎(むか)えてくれたと。
 そして、別れるときにミカン神は、
 「今まで私の娘を可愛(かわい)がってよく育ててくれた。ありがとう」
と言って、お礼を述(の)べられたと。
 そして、爺さまの畑の、からたちの木になる実を、みんな大判小判(おおばんこばん)にしてくれたので、それから二人は、いつまでも安楽(あんらく)に暮らしたと。

  とっちぱれ。

「からたち姫コ」のみんなの声

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