― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、ある畑で秋祭りがあった。
昼にはネズミの相撲大会(すもうたいかい)、夜にはネズミの夜店(よみせ)がずらーっと並んで、大賑(おおにぎ)わいだと。
キュウリとナスビが誘(さそ)い合って相撲見物に行った。
相撲のおはやし太鼓がテケテケ、テケテケとなっていて、幔幕(まんまく)の内(なか)からはワァーという喚声(かんせい)も聞こえてきた。
キュウリがネズミの木戸番(きどばん)に、
「なんぼ」
ときいたら、
「チュウ文(もん)、チュウ文」
という。キュウリは十文(じゅんもん)払って木戸口(きどぐち)を通った。
ナスビも十文払おうとしたら、ネズミの木戸番が、
「ナスビは入れん」
という。
「何でだ。十文払うぞ」
「だめだ」
「キュウリは入れたのに、何で俺は入れん」
と、口をとんがらかして言うたら、ネズミの木戸番は、
「キュウリの酢もみ(相撲見)ということはあるけど、ナスビの酢もみというのは聞いたことがない」
というた。ナスビは、
「そういえばそうじゃのう」
というて帰ったと。
夜になって、ネコとタカが誘い合って夜店に行った。金魚釣り(きんぎょつり)の店があったと。ネコが、
「俺、金魚が大好物なんだ」
というたら、タカも、
「俺も魚は大好きだ」
という。
ネコとタカは金魚釣りをすることにして、ネズミの店主(てんしゅ)に、
「ニャンぼだ」
と聞いた。ネズミの店主は、
「チュウ文、チュウ文」
という。ネコが、
「金魚釣りが十文とは高いニャー」
というたら、タカが、
「タカい、タカい。まけろ」
と加勢(かせい)して言うた。が、まからなかったと。
ネズミの店は、どの店も、どの品もみんな十文なんだと。
カエルも夜店に行こうとして、ビクタリ、ビクタリ歩いていたら、くたびれたと。一休み(ひとやすみ)していると、イタチが通りかかった。
「イタチどん、イタチどん」
「おっ、びっくりした。カエルどんか。どうした。何か用か」
「うん、俺、夜店に行こうかと歩いてきたがくたびれてしもうた。頼みがある。俺をお前(め)さまの背中に乗っけてってくれまいか」
「ふうーん。むこうへ着いたら、何かごちそうしてくれるかい」
「いいよ」
ということになって、カエルはイタチの背中におぶさったと。
途ちゅうでネコとタカに出合ったら、ネコが、
「早よう行かニャー、ニャーンも無くなるニャー」
というた。
イタチとカエルはあわてて行ったと。着いてみたら、夜店はみいんな閉っていたと。カエルが、
「イタチどんに無駄足(むだあし)させちまった。しかたない。ケエロ、ケエロ」
というたら、イタチが、
「あーあ、行った賃(ちん)もない」
こういうたと。
おしまい、チャン チャン。
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「秋祭り」のみんなの声
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