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たからのげた
『宝の下駄』

― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに大層親孝行なひとりの息子がおった。
 あるとき、母親が病気で寝ているので薬を買うお金が必要になった。そこで権造(ごんぞう)という伯父(おじ)のところへ行って借りて来た。
 やがて、そのお金も使い果してしまったので、また伯父のところへ借りに行くと、伯父は、
 「お前みたいに借りたまんまで返すあてもない者にゃぁ、もう貸すことは出きん」
と、強い口調で断わられてしまった。
 息子は困り果てて、とぼらとぼら歩いていたら村の鎮守様の前へ来とった。
 「鎮守さまぁ、どうかいい思案を授けて下さい」

 拍手をポンポンと打って願かけてしてから、鎮守さまの階段に腰掛けて思案しとった。


 そのうち、疲れが出て、つい、うとうと眠ってしまってた。すると夢の中にひとりの老人があらわれて、
 「この下駄をはいて転ぶと、そのたびに小判が出てくるだろう。けれども、あまりコロコロ転ぶと背がだんだん低くなるぞよ」
と言って、一本歯の下駄を授けられた。
 息子は夢から醒めて振り返って鎮守さまを見上げると、階段の上の賽銭箱の前に、夢に出て来た一本歯の下駄が置いてあった。
 「今の夢は本当ならいいなあ」
といいながら、試しに下駄をはいて転んでみると、下駄の裏から小判が一枚、チャリンと出た。


 「うわぁ、本当だぁ。鎮守さま、ありがとうございます。これで母さんの薬が買えます」
 何度も何度もお礼を言って、下駄をかかえて大喜びで家に帰った。そして母親の枕元で下駄をはいて転んでみせると、また小判が一枚、チャリンと出たので驚くやら喜ぶやら。


 息子が訳を話して聞かせると、母親は涙を流して、鎮守さまの方角へ手を合わしお礼を言うた。
 そして、
 「小判一枚は薬とお米を買い、もう一枚は伯父さんにお返しに行きなさい」
と言った。
 息子が伯父のところへお金を返しに行くと、伯父はお金の出所(でどころ)をしつっこく聞いた。しかたなく訳(わけ)を話すと、
 「今までお前に貸してやったお金は返さなくていい。そのかわり、その下駄をわしにくれ」
と言って、息子の家に来て、むりやり持って行ってしまった。


 伯父は家に戻ると、戸を閉めきって、大きな風呂敷を敷き、その上で下駄をはくと、ゴロゴロ、ゴロゴロ転び続けた。小判は見る見るうちに山のように積った。が、伯父の身体はその度に小さくなって、とうとう虫のように小さくなってしまった。

 
 下駄を持って行かれた息子は、
 「伯父さん、どうしているだろう」
と、権造伯父のところへ行って、戸をそぉっと開けてみると、びっくりするほどの小判が山のように積もっていたが、伯父さんの姿はどこにも見当らない。
 「はて、伯父さん、どこへ行ったかなぁ」
と、よくよく探してみると、部屋の隅に何やら小さいものが動いている。
 「もしや、転び過ぎてあんなになったのではなかろうか」
と、かがみ込んで見ると、やっぱり伯父だった。
 「こんなに小さくなっちゃぁ、小判も下駄も、もう使えないね、ねぇ伯父さん」
 そう言うと、息子は、小判と下駄を持って家に帰って来たと。


 そのお金で母親をいい医者にみせたら、病気もすっかり快くなって、のちのち幸せに暮らしたと。
 ところで「ごんぞう虫」って知ってるかい。
 あれは、この欲張り伯父の権造がなったものなんだと。

 むかしこっぽり

「宝の下駄」のみんなの声

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