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うまれかわったあかご
『生まれかわった赤児』

― 和歌山県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、ありましたそうや。
 今の和歌山県紀の川市(わかやまけんきのかわし)に、昔は那賀郡田中村(ながぐんたなかむら)というた所がありましてのう、そこに、赤尾長者(あかおちょうじゃ)と呼ばれる長者がありましたそうや。子供がないのを悲しんでおったが、ようやく赤ちゃんが生まれた。それも玉のような男の子であったから、長者夫婦の喜びようはひととおりではなかったと。

 鶴は千年、亀は万年生きるというが、どうか万年も生きてくれよと、赤ちゃんの名前を亀千代(かめちよ)と名付け、毎日、秤(はかり)にかけて目方(めかた)が増えるのを楽しみにしておりましたそうや。

 
 こうして何ヶ月が経(た)ったある日のこと、長者は陽の当たる縁側(えんがわ)で、亀千代の目方を量(はか)ろうとしたそうや。ほしたら、秤の紐(ひも)がぷっつりと切れた。亀千代はどさっと庭へ落ち、打ちどころが悪かったのか、その夜のうちに息を引きとってしもうたと。
 さあ、長者夫婦の悲しみは言いようもない。泣く泣く、亀千代を小さなお棺(かん)に納(おさ)めたが、そのとき、ふと心に浮かんだ昔からの言い伝えがあった。

 
 “死んだ子の掌(てのひら)に名前を書いておけば生まれかわった先がわかる”
 
というものでありましたそうや。
 長者は、亀千代の左の小さな掌に、筆で、

 
  赤尾長三郎(あかおちょうざぶろう)の一子(いっし)、亀千代
 
と書きつけ、
 「亀千代や、いつか生まれかわって来いよ」
と言いきかせて、お棺のふたを閉じたと。

 
 それから何年か経ったある日のこと。赤尾長者の屋敷(やしき)に、小さな赤ちゃんを抱(だ)いた若い夫婦が訪ねて来ましたそうや。
 「わしらはどこそこ村の者(もん)だす。実は、この子の左の掌に、生まれながらに何やら文字のようなのがありますのや。それがなんぼ洗うたかて、とれへんのだす。アザではないようだすし、何やろと思うてお寺の和尚(おしょう)さんところへ連れて行(ゆ)きましたら、和尚さんの言わっしゃるには、
 『これは、“赤尾長三郎の一子、亀千代”と書いてあるさかい、赤尾長者はんのとこの亡(な)くなった子の生まれかわりや。掌のこの文字はどこの水で洗うても消えん。こうゆうものは、昔から、生まれた家の水で洗えば消えると言われとる。訪ねてみい』
と、こう言われました。そんな訳で、お水をいただきに参りました。どうかお宅の水で洗わさせて下さりませ」
 「な、なにい。そ、その赤ちゃんの掌に」
 驚(おどろ)いた長者夫婦がその赤ちゃんの掌を開いてみると、まぎれもなく長三郎の書きしるした筆文字(ふでもじ)が、そのまま現われてあったと。

 
 「ああ、ありがたいこっちゃ。ありがたいこっちゃ。ようまあこの世に生まれてきてくれた」
 「ほんに、可愛らしい顔をして。亀千代そっくりや。よう来た、よう来た」
 長者夫婦は赤ちゃんを抱きしめて、涙流して喜んだと。そして、
 「一生のお願いや。この赤ちゃんを、わしらに呉(く)れんか。お礼はなんぼでもするさかい」
 「ほんに、これ、この通り」
と、両手をついて頼みましたそうや。
 しかし、いっくら頼まれてもこればかりはどうにもならん。若夫婦にとっても可愛くてならん児(こ)だ。もらい泣きしながらも、はっきり断って、この家(や)の水をもらい、その掌を洗ったと。
 そしたら、掌の筆文字はみるみる消えてしまいましたそうや。


  おしまい。

「生まれかわった赤児」のみんなの声

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