― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに山のネズミがあった。
山のネズミの食べる物はどんぐり、栃(とち)の実、アワにヒエだったと。
山に雪が降って、食べ物をさがすのが大変だったと。
あるとき、食べ物を探して山のふもとへ下りてきたら、丸々と肥えたネズミに出逢った。
「やぁや、お寒(さむ)うさん。この辺じゃ見かけたことが無いが、お前(め)、どこから来たや」
「やぁや、お寒うさん。お前も見たことが無いがどこから来たや」
「俺は、このうしろの山に棲(す)んでいる」
「俺は、このうしろの町に棲んでいる」
あいさつが済んで、二匹は仲良くなったと。
ある日、山のネズミの家を町のネズミが訪(たず)ねてきた。山のネズミは乏(とぼ)しい冬の貯え(たくわえ)のどんぐりと栃の実を御馳走(ごちそう)した。町のネズミはおいしい、おいしい言うて食べたと。一晩泊って、
「いや、御馳走になった。今度は、俺ン家(ち)へ遊びに来ておくれ」
と言うて帰って行った。
別の日、山のネズミは町のネズミの家を訪ねた。
町のネズミの家は、立派な屋敷門のある家で、倉が幾つもあった。町のネズミは、白いご飯に魚をつけて出してくれた。山のネズミは、
「こりゃすごい御馳走だ。お殿様みたいだ」
と言うて、喜んで食べたと。
「おかわりして、何ぼでも食うておくれ。ここの家のお倉の中には米も味噌もぎっしり積まさってあるから」
「いっつも、こんなうんまいもの食べられるなんて、町方はうらやましいなあ」
と言うていたら、ニャオーって声がした。
「あれは何の声」
と、山のネズミが言うと、町のネズミが、
「しーっ。黙って、動かないで」
と、顔をひきつらせて言う。また、
「ニャーオー」
と、今度はさっきより近くで声がした。
「何、どうしたの、何の声」
と、山のネズミが訊いた途端に、猫が飛び出てきて、町のネズミをくわえて、どこかへ行ってしまった。
あっという間の出来事で、山のネズミはびっくりして山へ逃げ帰ったと。そして、
「町のネズミは、米のご飯に魚を添(そ)えて食べとる。棲むところも温(ぬく)い。俺はそれでもこの山の中が一番いい。どんぐりでも、栃の実でもアワでもヒエでも、そんなの食べていても、
ここが一番いい」
と、こう言うたと。
それっきり。
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むかし、あるところにひとりの爺(じ)さまがおった。爺さまは畑に豆をまいた。秋になって、たくさんの豆がなった。爺さまはそれを刈(か)り取って束ね、束ねては立てかけて、畑に干しておいたと。
「山のネズミと町のネズミ」のみんなの声
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