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きつねのよめいり
『狐の嫁入り』

― 宮崎県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある村にひとりの男があったと。
 山道を歩いていたら、日が照っているのに雨がパラパラ落ちてきた。天を仰(あお)いで、
 「ほ、こりゃ狐(きつね)の嫁(よめ)入り日じゃ」
いうとったら、いつの間にやら、少し先を娘が歩いちょる。それが振(ふ)り向いて、ニコウとほほ笑(え)んだ。
「えらいべっぴんさんじゃぞ」
 娘は男の先を遠くもなく、近くもなく、科(しな)よく歩いてはニコウと振り向く。そのたんびに男はどぎまぎした。


 娘が雑木林(ぞうきばやし)の木の枝を手折(たお)って髪(かみ)に差した。
 一本差すと一本がかんざしになった。
 二本差すと二本がかんざしになった。
 太い木に触って幹をひと巡りしたら、金襴緞子(きんらんどんす)の衣装(いしょう)を纏(まと)った、みごとな花嫁(はなよめ)さんになった。
 「ややぁ、おかしいぞ。あの娘は狐じゃなかろうか」
 男は目をパチクリさせて見ていたと。 
 そうこうするうちに、向こうの竹藪(たけやぶ)のなかから、狐顔(きつねがお)の、仲間らしいのがぞろぞろ出てきた。それらは長持ちをかつぎ、駕籠(かご)をかつぎして花嫁さんのそばに控(ひか)えた。みんな立派(りっぱ)な紋付(もんつ)きの着物(きもの)を着ていた。
 「やっぱり、こりゃ、狐の嫁入りじゃが。こんなんは滅多(めった)に観(み)られんこんだ」
 男は嬉(うれ)しくなって、狐の嫁入り行列(ぎょうれつ)について行ったと。


 嫁入り行列は、ながながと山の奥へと続いて、やがて、おおきな藁葺(わらぶ)き屋根の家の中に入って行った。男は、
 「ここで祝儀(しゅうぎ)があるんかい。見物しちゃろ」
ちゅうて、家の周囲(しゅうい)をぐるり廻(まわ)った。
 「どこかにのぞき穴(あな)は無(ね)えどかい」
ちゅうて探したら、やっと、頭の上あたりにのぞき穴が見つかった。
 「よしよし、ここからのぞけば狐の嫁入り祝が見ゆるぞ」
ちゅうて、石段(いしだん)に足をかけて伸びあがり、壁(かべ)の穴をのぞきこんだ。

 家の中では立派なお膳(ぜん)が並び、祝いごとが始まっていた。
 「ほう、まこちみごとなもんじゃ。人の祝言事(しゅうげんごと)と変わっとらん」
ちゅうて見入っていたら、足が強張(こわば)ってきた。

 
 「どれ、一服しよう」
ちゅうて、煙管(きせる)に刻みタバコを詰(つ)め、火をつけた。プカリ、プカリやっていたら、あたりの景色(けしき)が変わってきた。
 「妙なこっちゃ。藁葺(わらぶ)きの家が無(の)うなった。ありゃ、こりゃお宮じゃねぇかい」
 まわりをよおっく見ると、石段だと思っていたのは石灯籠(いしどうろう)のしたの台で、罰当(ばちあ)たりにも、そこに登って燈籠(とうろう)の丸い穴を覗いていたのだった。燈籠の穴からお宮の屋根が見えていたと。
 男は、狐だとわかっていたのに、それでも化かされていたのだと。

 狐に化かされたときは、タバコを吸えば正気になる、って昔の人がよう言うちょった。
 
 こりぎりの話。

「狐の嫁入り」のみんなの声

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驚き

私が読んだのと違う( 10歳未満 / 女性 )

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ちょっとよくわかりませんでした( 10代 )

驚き

なにか感動も怖さもしないが何か、不思議な感じがする。( 10代 / 男性 )

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驚き

小さい頃にお母さんに、晴れているのに小雨が降ることを狐の嫁入りっていうんだよと言われ、それからずっとそんな天気になると、狐の嫁入りや!と言ってきたのですが、昔話があるとは知りませんでした。知れてよかったです!( 10代 / 女性 )

感動

不思議な話。宮崎の方言がまたいい感じです。( 10代 / 女性 )

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