八人も同じ名前なんてすごい!( 10代 )
― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、奥州(おうしゅう)のある村に、八十八(やそはち)という名前の男が六人も住んでおったそうな。
あだながなくては誰が誰だかよくわからない。そこで、一人は気が荒いから外道八十八(げどうやそはち)、ひとりは博変(ばくち)がすきで博奕八十八(ばくちやそはち)、一人は田んぼを作っているから百姓八十八(ひゃくしょうやそはち)、一人は米の商(あきな)いをするから米屋八十八(こめややそはち)、また一人は盗みをするので盗人八十八(ぬすっとやそはち)、今一人は智恵があるので分別八十八(ふんべつやそはち)という名をつけて、間違われないようにしておったと。
ある日、外道八十八が博奕八十八とけんかをしていた、うんとなぐったら博奕八十八が死んでしまったそうな。
殺す気はなかったので外道八十八はびっくり、ほとほと困って、分別八十八のところへ相談に行ったと。そしたら、
「その死骸(しがい)を百姓八十八の田の水口(みずぐち)に持って行って、そおっと田の畔(くろ)にしゃがませておいてみよ」
と教えてくれたと。
その晩(ばん)、百姓八十八が田の水を見まわりに出てみると、自分の田の水口に誰かがしゃがみこんでいる。
「さては、また、水を盗(ぬす)みに来たな」
と言って、後ろから忍(しの)び寄(よ)って、棒(ぼう)でなぐったら、ころりと倒(たお)れた。
それをよく見ると博奕八十八だった。
「と、とんでもないことをしたぁ、どうしたらいいか」
と困って、分別八十八のところへ相談に行ったと。そしたら、
「その死骸を空き俵(だわら)につめて、米屋八十八の、倉の前にある米俵(こめだわら)の一番上に置いてみよ」
と教えてくれたと。
挿絵:福本隆男
そしたら、盗人八十八が米屋八十八の倉の前から米かと思ってその俵を盗んできたと。家に担(かつ)いで来て俵をあけてみると、中から博奕八十八の死骸が出たので、
「ひゃああ」
と肝(きも)をつぶしてしまった。どうしたらいいかと思案(しあん)にくれて、やっぱり分別八十八のところへ、お礼を持って智恵を借りに行ったと。
「そんなら、博奕八十八の家の表戸(おもてど)を叩(たた)いて『今もどったぞ』と言ってみよ。きっと、女房(にょうぼう)が怒(おこ)っているからあくたれをついて戸を開けないはずだ。そうしたら、死骸を門口(かどぐち)の井戸(いど)の中へ投げ込んでくるがよい」
と教えてくれた。
盗人八十八は、教えてもらったとおりに、未(ま)だ夜が明けきらないうちに博奕八十八の家の戸を、ことことと叩いて、
「カカァよ、今帰った。開けてくれ」
と、つくり声で言った。
そしたら、あんのじょう女房が大声を出して、
「今帰ったもないもんだ。お前みたいな亭主(ていしゅ)は死んだ方がましだ」
と、わめきたてた。
盗人八十八は、このときばかりに、死骸を井戸の中へドブンと放り込んで、逃げ帰ったと。
さあ、その水音(みずおと)を聞いて驚いたのは女房だ。
自分の言葉の思わぬ効果(こうか)にびっくりして、大騒ぎで村中の人を起こし、博奕八十八を引き上げてもらった。が、亭主は既(すで)に死んでおったので、おいおい泣いたそうな。
分別八十八だけは、一晩(ひとばん)に皆からお礼をもらって、一人うまいことをしたそうな。
どんとはらい
八人も同じ名前なんてすごい!( 10代 )
むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。
「分別八十八」のみんなの声
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