来年の事を言えば鬼が笑う?落語の落ちみたいな話。極楽と地獄の間が有った方が良いんじゃない?…駄目か。
― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにひとりの爺(じ)さまが住んでおったと。
爺さまは、面白(おもしろ)い昔コ語(かた)っては、人を笑わせていたと。
ところが爺さまも年も年とて、ある日、ころっと死んでしもうた。
死んだ爺さま、極楽(ごくらく)へ行こうと、いくがいくがいくと三途(さんず)の河(かわ)があって、それを渡(わた)ったら鬼供(おにども)がいっぱい居(い)て、あれよあれよという間に、えんま大王様の前に連(つ)れられて行ったと。
挿絵:福本隆男
えんまさまは、帳面(ちょうめん)を見て、
「お前は地獄(じごく)行き」
と告げたと。
「な、なんで」
爺さま、魂消(たまげ)て、もういっかい死ぬところだったと。
「これ爺、お前、娑婆(しゃば)では何をしていた」
「は、はい、おら、生きていたときは昔コが大好きで、面白(おもしろ)い昔コ作っては子供たちに語って喜(よろこ)ばしていたで、死んだら、てっきり極楽行きだと思って楽しみにしていましただ」
「いやいや、作り話の嘘(うそ)ばかり子供に語ったので、まんず、地獄行きだ」
「そ、そんでも、子供は喜んでいましたがのう。そんなこと言わねえで、どうか極楽さやってけせ」
「ずい分ねばる爺だ。うーむ、ようし、それでは、わしの側(そば)にいるこの鬼は、生まれてからこのかた、一ぺんも笑ったことが無い鬼だ。これを笑わせたら極楽にやってもよい」
「そりゃ、まことですかのう。あとで『嘘じゃ』なんていわんじゃろなあ」
「わしは人間を裁(さば)く役目だ。なんで嘘などつくものか」
「そんなら、笑わん鬼のお前さん、ちいっとかがんで耳を貸(か)して下さらんかのう」
爺さま、口を近づけて、小さな声で、
「ライネン、ライネン、ライネン、
なんやらかんやら、ゴニャラ、ゴニャラ、
ライネン、ライネン、ライネン、」
と言うたと。
すると笑わん鬼が急におかしがって、身をよじって笑い転(ころ)げた。
それを見たえんまさま、
「こりゃ、たまげた。これ爺、お前、あの鬼に何を言うた。なんで、あのように笑うとる」
爺さま、にやっと笑って、
「なあに、来年のこと言えば、鬼は笑うに決まっとる」
爺さま、めでたく極楽に行ったと。
どっとはれぇ。
来年の事を言えば鬼が笑う?落語の落ちみたいな話。極楽と地獄の間が有った方が良いんじゃない?…駄目か。
ことわざでわらった
一切笑わない鬼を、深くないネタで笑わせるなんてなんて頭の柔らかい鬼となんて愉快な鬼なんだ。( 10代 / 男性 )
とんとむかし、ある刀鍛冶のところへ、兼光(かねみつ)という若い男が弟子(でし)いりしたそうな。兼光はまじめに働(はたら)いて、師匠からも気にいられ、何年かすると師匠の向こう鎚(づち)を打つまでに上達したと。
むかし、あるところに和尚さんと小僧さんがおったと。ある秋の日、和尚さんと小僧さんが檀家の法事をすませてお寺へ帰る道を歩いていたと。空は晴れとるし、草花は咲いとるし、道端の石に腰かけて、和尚さん一服した。
「鬼を笑わせた爺さま」のみんなの声
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