― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
整理・加筆 六渡 邦昭
むかし、甲斐(かい)の国、今の山梨(やまなし)県のある村に一人の旅人がやって来た。そして、
「村の衆(しゅう)、わしは医者だけんど、この村に住まわせてくれんかー」
というた。
村の人たちは、医者がいなくて困っていたところだから、
「それはありがたい。いつまでもいてくれろ」
と、喜んだ。ところが、医者どんの住む家がない。仕方なく、村から少し離(はな)れた荒(あ)れ寺に住んでもらうことになった。医者どんは、たった一人でその荒れ寺で暮(く)らしておった。
ある夜のこと。
医者どんが寝(ね)ていると、裏(うら)の笹(ささ)ヤブが、ガサ、ガサ、と鳴っている。
「はて、何じゃろう」
といぶかっていると、その内に何かが寺の縁側(えんがわ)にあがりこんで、ミシ、ミシ、と音をたてた。
さぁ医者どんはぶったまげて、頭から布団をかぶってガタガタと震えておった。
そうしたら、その何かが、割(わ)れ鐘(かね)を叩(たた)いたような声で、
〽 医者どんの頭をステテンコテン
医者どんの頭をステテンコテン
と、どなった。が、そのあとはシーンとして、なーんの音もしない。
医者どんは、
「こりゃぁ、化け物のしわざにちがいない」
と思って、次の朝まだ早いうちから村に行き、村人達に昨日の夜のことを話した。そうしたら、元気のええ若い衆が何人も、今夜寺に泊(とま)ってくれるということになった。
なにしろ、みんな元気がええもんだから、夜になると、寺のイロリにまきをいっぺぇくべて、さぁ、化け物、出てこい!とばかりに待っておった。
夜も更(ふ)けたころ、ゆうべと同じように、裏の笹ヤブが、ガサ、ガサ、ガサ、ガサ、と鳴った。そして、次に、寺の縁側で、ミシ、ミシと音がした。
するとまた、
〽 医者どんの頭をステテンコテン
医者どんの頭をステテンコテン
と、割れ鐘のような大声がした。
今夜はこっちも大勢(おおぜい)だから気が強い。村の若い衆が声をそろえて、
〽 そんな事言う者(もん)の頭をステテンコテン
そんな事言う者(もん)の頭をステテンコテン
とどなり返した。
そうしたら、化け物は、負けじとばかりに、さっきより大声で、
〽 医者どんの頭をステテンコテン
と言い返してきた。
さぁ、それからは、両方でどなったり、どなり返したり、大騒(さわ)ぎ。
そのうちに、化け物の声がだんだん小さくなって、とうとう、ウンともスンとも言わなくなってしもうた。
やがて朝になって、医者どんと若い衆が外に出てみると、一匹のでっかい古狸(ふるだぬき)が死んでおった。
言い負かされたくやしさで、自分で自分の腹をくい切って死んでいたんだと。
いちが さかえた。
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これは本当にあった話らしい。あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんとが暮らしていたんだな。ある夜、この家へ泥棒(どろぼう)が入ろうとして中の様子…
とんと昔あったげな。 あるところにとても話し好きの爺さんがあったと。 毎晩(まいばん)毎晩若い衆(し)が幾人(いくにん)も来て、とてつもない話をしては、爺さんを喜ばしていたと。
「言いまけダヌキ」のみんなの声
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