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とりのすさばき
『鳥の巣裁き』

― 山口県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、
 長州と土佐と薩摩(さつま)の侍(さむらい)が一緒に道中(どうちゅう)していて、ひとつ宿(やど)に泊まったと。
 風呂(ふろ)に入り、食事をして、酒も呑(の)んだ。
 三人はほてった身体(からだ)を冷やそうと、出窓(でまど)に腰(こし)かけて外の風にあたっていたら、風が強くなってきた。向こうの松林の木々がゆれている。そしたら、長州の侍が、
 「ヒューっちゅう音は、風が鳴るのか、松の枝が鳴るのか、どっちじゃろうのう」
というた。

 
鳥の巣裁き挿絵:福本隆男

 そしたら土佐の侍が、パチンと柏手(かしわで)を打って、
 「柏手の音は、右手が鳴るのか、左手が鳴るのか、どっちじゃろうのう」
というた。


 そしたら薩摩の侍が、コホンと咳(せき)して、思いっきり屁(へ)をたれた。
 「屁の音は、屁風(へかぜ)が鳴るのか、屁口(へくち)が鳴るのか、ハテ、どっちじゃろうのう」
というた。毒気(どくけ)を抜かれて大笑いしたと。
 笑いながら長州の侍が松林を見ると、ひときわ高い松の木のてっぺんあたりに、何やら鳥の巣らしきものがある。
 「あの松の木のてっぺんの巣は何の巣じゃろうかい」
というたら、薩摩の侍が、
 「ありゃあ、鴻(こう)の巣じゃ。いつかも見たことがある」
という。


 すると、言い出しっぺの長州の侍が、
 「あ、いや、ありゃ鶏(にわとり)の巣じゃった。このあたりの鶏は、野犬(やけん)に襲(おそ)われるんで木の上で眠(ねむ)ると聞いた。うん、間違いない。鶏の巣じゃ」
と、物識(ものし)りをひろうした。
 そしたら土佐の侍が、
 「ありゃ烏(からす)の巣じゃろ。なんぼなんでも鶏ちゅうことは……のう薩摩どん」
 「うむ、ありゃ鴻の巣じゃ」
 「いや、烏じゃ」
 「うんにゃ、鶏じゃ」
というて、さっき笑いおうたのもつかの間、意地の張り合いになったと。


 薩摩の侍が、
 「わしゃ、ちょっと小便(しょうべん)してくる」
というて、下におりて行って、
 「親父(おやじ)、親父、あの松林の一番高い松の木のてっぺんにある鳥の巣な、ありゃ鴻の巣じゃというてくれ、言うてくれたら一両やる」
というて、宿の親父に一両を握(にぎ)らせ、二階に戻って素知(そし)らぬ顔をしとった。
 こんどは長州の侍が、
 「わしも小便しとうなった」
というて、下へおりて行き、宿の親父に、
 「あそこに高い松の木があろう、てっぺんになにやら鳥が巣をかけちょる。あの巣は、おれは鶏の巣じゃと思うんじゃが、それを他の奴らは、ありゃ鴻の巣じゃあ、烏の巣じゃあゆうてきかんのじゃ。負けちゃおられん。そこで頼みがあるんじゃが…ありゃ、鶏の巣じゃ、ちゅうて言うてくれんか。言うてくれたら、一両やる」
というて、親父に一両握らせたと。


 長州の侍が二階へ戻ったら、こんどは土佐の侍が、
 「わしも厠(かわや)へ行っちくる」
というて、下へおりて行き、親父に烏の巣というてくれと頼んで、一両握らせたと。
 二階の部屋に三人揃(そろ)ったら、また
 「鴻の巣じゃ」
 「鶏じゃ」
 「烏じゃ」
と、意地(いじ)の張り合いだ。とうとう、首をかけることになった。審判(しんぱん)がいる、宿の親父を呼べ、ということになった。三人が三人とも否(いな)はない。

 
鳥の巣裁き挿絵:福本隆男

 宿の親父は両手をもみもみ上がって行った。
 「親父、ありゃ鴻の巣じゃろ」
 「親父、違(ちが)うわのう、ありゃあ鶏じゃろうが」
 「ううんにゃ、親父、烏の巣じゃなあ」


 宿の親父、
 「は、はい、それがそのう、あの松の木に巣をかけたのは、鴻の鳥でしての、そいで卵(たまご)を生みましての、かえったのを見ましたら二羽の鳥でござりました。まあ、なんですか鶏でござりましての、そのうち雛(ひな)もだんだん大きくなりましたで、それが飛びたって行きよりました。で、あとは、それ、あの通り空巣(からす)にござります」
というた。三人とも毒気を抜かれて大笑いしたと。
 
 これきりべったり ひらのふた。

「鳥の巣裁き」のみんなの声

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うまい!( 30代 / 男性 )

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