― 山口県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに、一人の猟師(りょうし)がおったげな。
ある日、鉄砲をかついで山に出掛け、藪(やぶ)にしゃがんで獲物(えもの)が来るのを待っちょったげな。
そしたら、ミミズが一匹出て来たと。
猟師がミミズに見とれちょると、どこからか蛙(かえる)が一匹出て来さって、パクッてミミズを呑んでしもたげな。
猟師がたまげて、その蛙を見ちょったら、こんだあ、蛇が出て来よった。
そして、ミミズを呑んだ蛙を、キュウッと呑み込んでしもうたげな。
猟師は、面白うなって、その蛇を見ちょると、こんだぁ、空から雉(きじ)が飛んできょって、スウッと下りて来るが早いか、その蛇をくわえて舞い上がって行ったげな。
雉は、ええかげん高(たこ)う上(あ)がると、くわえちょった蛇を、パタッと落としたんじゃと。
それからまた、スウッと下りて来よって、落した蛇を、またくわえて舞い上がり、ええかげんのところで、また落したげな。
雉は、こんなことを三べんも、五へんもくり返しよったが、そうしちょるうちに、蛇はとうとう死んでしもうたんじゃと。
蛇が動かんようになると、クチバシでつついて、蛇をきれいに喰うてしもたげな。
ここまで見ちょった猟師は、
「ほい、ばかじゃった。早よう雉を射たんにゃあ逃げるがに」
ちゅうて、鉄砲をかまえて雉を射とうとしたんじゃあ。
したが、ひょいと考えたげな。
「まてよ、蛇を殺してくうた雉を、わしが射って殺すと、次にゃ、このわしが、また何かに殺られてしもうじゃあなかろうかいのお」
ちゅうて、気に掛かり出したげな。
目は、ずっと雉をねろうちょるのに、指の方が言う事きかいで、どうにも、こうにも引き金が引けんかったと。
とうとう、猟師は、雉を射つことが出来いで、鉄砲かついで山を下りてしもうたげな。
順めぐりが、恐ろしゅうなったんじゃ。
その猟師の耳に
「猟師よ、命をひろうたなぁ」
ちゅう恐ろし気な声が響いて聞こえげな。
猟師はうしろも振り向かんと下りてしもうたげな。
その背中の方の空で、大きな目玉が二つ、金色に光っておったげな。
これきり べったり ひらの蓋。
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