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でんぽうぎつね
『でんぽう狐』

― 山形県 ―
語り 平辻 朝子
採集・再話 野村 純一 / 野村 敬子
再々話 六渡 邦昭

 むがし、むがし。秋田(あきた)ど山形(やまがた)の間ば状箱(じょうばこ)担(たな)いで走る飛脚(ひきゃく)いだった。
 ほの飛脚だば、秋田の殿様(とのさま)の書状(しょじょう)ば持って走って山形さ行き、山形の殿様の返事(へんじ)ばもらって、走って秋田さ戻(もど)る。朝が秋田で昼(ひる)が山形、夕方にはまた秋田ていうよだな。一日で往復(おうふく)してしまうけど。


 ある日な、この街道(かいどう)ば走って行ぐ飛脚の姿(すがた)見で、茶屋(ちゃや)の爺(じい)、首傾(かし)げたど。
 「婆(ばあ)、あれぁきっと狐(きつね)コだべ。人の姿形(なり)だども、様子(ようす)変(へん)でねか」
 「どれえ、ありゃ、状箱で通りの人を払(はら)った。飛脚はあんなこたあせん。爺の見立(みた)て通りだ」
 「そんだか。よっし、鼠(ねずみ)ば捕(とら)えで油(あぶら)で揚(あ)げろ。それば糸縄(いとなわ)コで軒(のき)さ吊(つ)るしてみるべ。きっと喰(く)いに来るさげて」
て、爺と婆ふたりして油鼠(あぶらねずみ)ば作った。して、油鼠ば軒下(のきした)さ吊り下(さ)んげでだど。

 ほの飛脚、状箱ば持って茶屋の前さ差(さ)しかがったけ、油鼠の匂(にお)いで、はっと止(と)まったけど。
 ほんでも思いなおして、直(す)ぐに行ってしまった。


 爺と婆、ほれば隠(かく)れで見でだもんで、
 「ほら、足が止まったべ。やっぱり人の形(なり)していでも油鼠が喰いでじゃ、畜生(ちくしょう)だもん。きっと戻って来るさげ、油鼠ばそのまま軒さ吊るしておぐべ」
て、様子見ることにしたけど。

 飛脚に化(ば)けた狐、油鼠のええ匂いするもんで、狐の本性(ほんしょう)が戻ったべ。三里(さんり)も走ったんだが我慢(がまん)さんねくて、喰いでくて喰いでくて、戻ったど。
 ほして、軒下さ吊り下んげであった油鼠ば、ぱくっと喰らいついだ。
 「ほれっ、来たどぞ」
て、爺と婆ぁ待っているべ。


 棒(ぼう)でわっち、わっちと叩(たた)がれて、とうどう殺されてしまったど。
 狐コどしても、
 「あれ喰えば、見破(みやぶ)られるな」
て、分がってでも、喰いてくでだど。

 昔にこんなことがあったから、終(おわ)りが分がっていても、つい、やってすまうようだな事を喩(たと)えで、
「油鼠は三里戻っても喰う」
て、いうなだど。

 とんびすかんこ ねっけど。

「でんぽう狐」のみんなの声

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