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じいさんとたぬきものがたり
『爺さんと狸物語』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 沖野 音亀

 明治から大正の頃のようじゃが、池の集落(しゅうらく)に、宮地というお爺(じい)が居(お)って、いってつ者であったと。
 楽しみといえば、中央の池に出て、鯉(こい)や鮒(ふな)、鰻(うなぎ)などを釣(つ)ってきて、家の前の堀池(ほりいけ)で飼(か)い、煮(に)たり焼(や)いたり酢にもして晩酌(ばんしゃく)の肴(さかな)にしていたそうな。

 ところが堀池の魚の数がだんだん減るので不思議(ふしぎ)に思い、気をつけていたら、夜中に裏山から狸(たぬき)が数匹(すうひき)忍(しの)び込んで来て、堀池の魚をはさみ取って逃(に)げる。


 腹(はら)が立った爺さんは、裏山に登って狸の住む岩穴を見つけ、青松葉でいぶし出し、 何匹も生け捕(ど)った。
 さぁそうなると狸族は、夜半(よなか)に降(お)りてきて、爺さんの田畑を荒らしたり、庭先で糞(ふん)をしたり、雨戸に石を投げるなどして、自然と敵対意識(てきたいいしき)が強くなるわけよ。

 ところで、爺さんは酒が少々飲めるので、飲講(のみこう)とかに入って月に一回ぐらい仁井田(にいだ)の宴会(えんかい)に行ったらしい。
 いつも帰りは日暮(ひぐ)れだから、狸族は皆で爺さんを化かしてこらしめてやろうと、雑木林(ぞうきばやし)で待っていたところ、爺さんは、その日は早目に引き上げてきたので、まだ陽が高くて化かすには都合が悪い。

 それでも何とか化かして懲(こ)らしめてやろうと、木の葉をつばで頭や体に着け始めたと。
 しかし、賢い爺さんは、狸の体臭(たいしゅう)を知っていて、ふと林を見ると、狸族が木の葉を頭や体に着ている様子だ。


 そこで爺さん大声で、
 「こらっ狸、おのれ等はこの俺(おれ)を化かすつもりか、そうはいかんぞ。見よれ、明日は俺が山へ行って、コジャンと巣を焼きまくるぞ」
と怒鳴(どな)ったと。

 驚(おどろ)いた狸族一同は、ホウホウのていで逃げたと。
 しかし、爺さんは巣を焼きには行かざった。
 その夜、狸族が集まって、
 「これはいかん。あの爺さんににらまれたら我等(われら)は死滅(しめつ)ぞ。もともと盗み食いから始まったことで、こちらが悪い。何とかして爺さんに詫(わ)びねばならん」
と決めたそうな。


 それから一か月ぐらいして爺さんは、また酒場に出かけたと。

 帰りは薄暗(うすぐら)く、一歩は高く、一歩は低く、あちらへフラフラ、こちらへフラフラ、やっと三味線(しゃみせん)松から降(お)り坂で左廻(まわ)りで池の集落(しゅうらく)、しばらく行って、右側の田んぼに転落(てんらく)したと。
 運の悪いことに、落ちた所に大石があって、背中を強く打って意識不明(いしきふめい)になったと。
 どれくらい時間が経(た)ったか、水を飲まされて気がついてみると、狸の体臭がいっぱいで
、その数十二、三匹か。互いに交って爺さんの胸(むね)や腹(はら)、手足をなでて介抱(かいほう)していたと。


 頭には水を包んだ田芋(たいも)の葉が乗せてある。
 「おお、お前らか俺を介抱してくれたのは、お陰(かげ)で助かった。どうもすまんのう」
と起きあがり、
 「明日の午後に俺の家に、皆して遊びに来い。お礼にご馳走(ちそう)を作っておく」
と約束したそうな。
 あくる日、狸族一同がこわごわ行ってみると、爺さんが炉(ろ)のそばから招(しょう)じ入れ、鯉と鮒の煮たもの、鰻の焼いたのを山盛(やまも)りご馳走してくれたと。
 そして、爺さんと狸族は仲良くなって、狸は隠(かく)し芸などして賑(にぎ)やかであったと。

 それから数年後、爺さんは老弱(ろうじゃく)したので、狸族はかわるがわる来て世話したと。

 
 最後のときには、ボス狸が人間に化けて、下田(しもだ)の医者を呼んで来たと。
 また医者の知らせで集落の人が集まって葬式(そうしき)をすましたが、その土まんじゅうの墓は、いつも掃除が出来て、四季の山の物が供えられて、しきみが枯(か)れると、いつも新しいのに替(か)えられていたと。
 
 むかしまっこう さるまっこう
 さるのつべはぎんがりこ

「爺さんと狸物語」のみんなの声

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楽しい

狸あんなにケンカしたのに爺さんを助けて優しい。( 男性 )

驚き

たぬきと爺さん、あんなにひどいけんかしてたのに、よく仲良くなったね。

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