せめても、インテリ猿の純情を嘉したい。
― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 武田 正
整理・加筆 六渡 邦昭
むかしあったとさ。
爺(じ)さまが山の畑耡(うな)いに行ったと。
あまりに疲れたので、
「ああこわい(疲れた)。こんなこわい思いして畑耡うのはつらいなぁ。娘(むすめ)三人持ったが、この畑耡って呉(け)る者あれば、どれでもええ娘呉(く)れっけどもなあ」
と、独り言(ひとりごと)言うたづうなだ。そうすっと猿出てきて、
「爺さ、爺さ、なに語った、今」
と言うた。
「何も語らね」
「何も語らねなてない。俺ぁ藪(やぶ)にいて聞いていた。何か語ったぞ」
「いや、俺は本当は、あんまりこわいからこの山の畑耡って呉る人あれば、娘三人持てたが、どれでもええなな(のを)呉れるて、本当は言うた」
「そんでは俺耡って呉っから、俺に呉ろ」
と言われて、
「ええごで」
と返事して、猿に山の畑耡ってもらったども、家さ帰って来て、
「こんなこと言うたって、ハイという子供もないし」
と、あまりに心配して、頭痛(や)めると言うて寝たづだ。
そうすっど、一番大きい娘が、
「父ちゃん、起きて御飯(ごはん)食え」
と言うたども、
「いやいや、何も食いたくない。ほだども、俺の言う事聞いて呉れれば、起きて食うども」
「なんの事だか、ほだら語ってみろ」
と言うので、
「これこれこういうことで、猿出はってきて、山の畑耡って貰(もら)ったから、お前(め)嫁に行って呉んねえか」
と言うたれば、
「何老(お)いぼれみたいなことこいでけつかる。猿のオカタ(奥方・嫁)に行かれっか」
と、枕(まくら)蹴(け)とばして逃げて行ったと。
二番目の娘も、
「父ちゃん、起きて御飯食え」
と言うたども、爺さま頼んだっきゃ、
「猿のオカタに行かれっか」
と枕蹴飛ばして逃げて行ったと。
末の娘来て、
「なんでも聞くから父ちゃん。具合の悪いのさえ治って呉れるごんだら、それでもええ。猿のオカタになって行くから、御飯食って治って呉ろ」
と言わっで、爺さま起きて御飯食って、何日にやると山の畑さ行って猿に会うて決めたど。そうして、末の娘は猿のどこさ嫁に行ったど。
三月のお節句(せっく)に餅(もち)搗(つ)いて、嫁の里帰(さとがえり)だど。猿が、
「この餅、何さ入れて持って行ったらええが。笹(ささ)さ包んで持って行くか」
と言うたら、嫁は、
「いやいや、おら家(え)の父ちゃんは笹さ取れば笹くさいから食わねと言う」
と言うた。
「重箱(じゅうばこ)さ入れっか」
「いやいや、重箱さ入れれば、重箱くさいって食わね」
「ほんだら、何さ入れて持って行く」
「本当は臼(うす)さ入れてそのまま背負って行けば、父ちゃん大喜びして食うから、そうして持って行って呉れ」
となって、猿は搗いた餅入れた臼、そのまま背負って山を下りだど。
途中まで来っど、川の上さ桜なびいて、何ぼかきれいに咲いていた。嫁が、
「父ちゃんは桜好きなな(なの)だから、桜の枝取って持って行けば喜ぶから取って呉ろ」
と言うたら、猿は背負った臼、おろそうとしたど。嫁、
「いやいや、土さ下ろすど土くさいて言うて、決して食わねがら、そのまま背負って登って呉ろ」
と言うたれば、猿、臼背負ったまま木さ登った。
「これでいいか」
「ンだな、それよか、も少し向こうの枝だとええな」
「ンでは、これかぁ」
「いやいや、いま少し枝のええどこ取って貰いたいなぁ」
こう言いあいながら猿をだんだんと上さやると、猿は重いもんだから、バギッと桜の木折れて、川の深いどごさ落ちてしまたけど。
猿、臼背負ったまま流されながら、
川に流るる猿の生命(いのち)は
惜しくはなけれど
あとに残りし姫(ひめ)恋しや
と詠(うた)ったど。
末娘は家さ帰って、爺さまの跡とりして、一生安楽に暮らしたけど。
どんぺからっこねっけど。
せめても、インテリ猿の純情を嘉したい。
お猿さんかわいそ! 娘もなかなかひどい奴w( 10代 / 女性 )
昔、盛岡の木伏に美しい娘があったと。毎日家の前の北上川へ出て、勢よく伸びた柳の木の下で洗濯物をしていた。あるとき、その娘がいつものとうり洗濯に出たまま行方がわからなくなったと。
「猿むこ」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜