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さけとしょうべん
『酒と小便』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし。羽前の国、山形県に、佐兵(さひょう)というとんち者がおった。この佐兵の住んでいた村は、天領(てんりょう)というて将軍(しょうぐん)さまの支配地だったが、隣(となり)の村は、上杉家の領地(りょうち)だった。
 そのころ、上杉家の土地では酒造(さけづく)りが禁じられていたので、佐兵の村の人達は、なんとか隣村へ酒を売りに行けないものかと考えていた。しかし、隣村との間には番所(ばんしょ)があり、いばっている役人がいて、酒を持っていると絶対に通してくれなかった。


 あるとき、佐兵は何を考えついたのか、酒を茶わんに入れ、グイと飲みほした。そして、新しい酒だるに小便をつめると、背中に背負って隣村への道を急いだ。


 佐兵が番所の前を通ろうとしたら、あんのじょう役人に、
 「おい、まてー。」
と、呼び止められた。役人は、
 「その背中の酒だるはなんだ。酒をこっちの村に運んではならん。早く引き返せ。」
と、佐兵をどなりつけた。
 「お役人様、これは酒ではありません。小便です。畑の肥料(ひりょう)にする小便を運ぶんですから、どうか通して下さい。」
と、佐兵がたのんだが、役人は、
 「なにっ、小便だと。こんな新しい酒だるに小便を入れるはずはない。」
と言うて信じない。無理はない。佐兵は酒を飲んでいるから、顔は赤いし、息も酒くさい。それでも佐兵が小便だといいはるので、
 「では、わしが飲んで調べてやるから、ここに、たるをおろせ。」
と役人は言うた。


 「お役人様、本当に小便、小便ですよ。」
 「小便でもかまわん、早くおろせ。」
 それを聞いた佐兵は、背中からそろりそろりと酒だるをおろした。すると、役人は、そばにあった水飲みひしゃくでたるの中身をすくうと、
<これはうまそうな酒じゃわい>
 と思うて、一気に飲んでしもうた。そのとたん、
 「ペッ、ペッ、ペッ。」
 「ば、ばか者!これは小便ではないか。わしに小便を飲ますとはけしからん」
とどなった。佐兵は、知らん顔して、
 「だから、さっきから小便だと申しております。」
というと、酒だるを背中にせおいなおし、スタスタと隣村へ行ってしもうた。
 
 さて、次の日。佐兵は、こんどはたるの中に酒を入れて、番所の前を通った。役人は佐兵を見ると、
 「おい、早く通れ。小便くさいぞ。」
というて、ものかげにかくれてしまった。
 おかげで、佐兵はゆうゆうと番所を通り、隣村で酒を売って、しこたまもうけたということだ。

 とーびんと。これでおしまい。

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なぜ上杉家の領内では酒づくりが禁じられていたのか。そこが気になった。( 40代 / 女性 )

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