民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 頓知のきく人にまつわる昔話
  3. においの代金

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

においのだいきん
『においの代金』

― 東京都 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある町にえらくケチな男が住んでおったと。
 飯を食うにも梅干をじいっと見て、酸っぱいつばがわいてきたら、いそいでご飯をかきこむ、というぐあいだったと。
 ところが、毎日毎日、梅干ばかり見ているもんだから、そろそろ飽きがきて、たまには変わったもんで飯が食いたくなったと。

 あるとき、何ぞいいもんはないかと町を歩いていると、向こうからぷーんと香ばしい匂いがして来た。うなぎ屋が店先で蒲焼き(かばやき)を焼いておったと。
 男は、急いで家に戻ると、どんぶり飯と箸(はし)とを持って、うなぎ屋にとって返し、その店先で、くんくん匂いをかぎながら飯を食い出したと。

 
 これを見ていたうなぎ屋の主人が、
 「そこのお客さま、お代をいただきやす」
と言うた。男は、
 「わしは、うなぎなど食うておらんぞ。匂いをかいでおるだけじゃ」
と言うと、店の主人は、
 「へえ、ですから、そのにおいのお代をいただきとうございやす」
と言うて、こちらもなかなか、たいしたケチぶりだ。
 「よし、分かった。そこまで言われて払わなかったら、こちらの男がすたるというもの。払いましょう」
 男はふところから財布(さいふ)を出したと。
 店の主人が手を出すと、
 「ほーれ、今から払うから、よーく聞けよ」
と、こう言うや、財布の中の小銭をかきまわして、
 「チャリン、チャリン」
と、音をたてたと。そして、
 「おやじ、においの代金は、音で払ったぞ」
 こう言うたと。
 
 おしまい チャンチャン。

「においの代金」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

においをかいだだけで,お金を払ったのは,すごいとおもいました。( 10歳未満 / 女性 )

驚き

ケチにしても程がある( 10歳未満 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

生き針 死に針(いきばり しにばり)

むがしあったけど。あるところに父(とど)と母(かが)と小んまい男子(やろっこ)が住んでいだけど。正月二日に初夢見ると幸せになるというが、その男子だけ…

この昔話を聴く

お盆のお供え(おぼんのおそなえ)

 盆の十五日に送られたご先祖(せんぞ)さまは、道々自分の子孫(しそん)たちの接待降りやごちそうの話をしたり、また、土産物(みやげもの)など出して見せあったりするのだそうな。

この昔話を聴く

雑煮餅のはじまり(ぞうにもちのはじまり)

 弘安(こうあん)四年、西暦(せいれき)では一二八一年、今からおよそ七〇〇年以上もの昔、九州の福岡県の博多(はかた)あたりの浜辺(はまべ)へ、海をへだてた隣(となり)の国、元(げん)の軍隊がたくさんの軍船に乗ってせめ寄ってきた。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!