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かじやのばあ
『鍛冶屋の婆』

― 島根県隠岐地方 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある商人(あきんど)が山越(やまご)えしようとしているうちに、日が暮れてしまったと。
 山は何が出るか分からんので、大きな木の上に登って夜明けを待つことにしたと。
 すると、真夜中になって、木の下に十匹ほどの山猫(やまねこ)が、ガサガサ集まって来た。
 そのうちの一番大きな山猫が、
 「おらが手をかけて落とすから、お前たちかみつけ」
といって、ザクリザクリ爪を立てて登って来て、今にも跳びかかろうとしたと。
 商人はびっくりして、腰に差した脇差(わきざ)しを抜いて、大山猫の腹へ突き立てた。
 「ギャー」
と悲鳴(ひめい)をあげて落ちると、今度は、他の山猫がかわるがわる登って来る。


 どの山猫も、どの山猫もみな突かれたり、斬(き)られたりしたと。
 「こりゃ、鍛冶屋(かじや)の婆(ばあ)に頼まねばどもならん」
といって、連れだって山を下りて行った。
 
 それからしばらくすると、ヨイサ、ヨイサという駕籠(かご)かきの声がした。商人は、
 「こいつは油断(ゆだん)がならんぞ」
と待ちかまえていると、駕籠は松の木の根本で止まった。
 「鍛冶屋の婆さん、ここでござんす。あの人間を退治(たいじ)してござっしゃい」
と声がするので木の下の駕籠から下りた婆さんをみると、それは大きな白山猫(しろやまねこ)で、袖無(そでな)しを着て、白手拭(しろてぬぐい)をかぶり、勇ましいのだと。
 「お前たち、あんな人間を捕らにゃあ、山猫のこけんにかかわるぞよ」
といって、鍛冶屋の婆といわれた猫は、フッフッと息を吐いて木を登って来た。下では、たくさんの山猫どもが舌なめずりしている。


 商人は、跳びかかって来た鍛冶屋の婆の額(ひたい)を斬りつけた。
 婆はたまらず木から落ちたと。
 「これは、わしの手にも負えん」
 「大事な婆さんを傷つけさせて申し分けないことをした」
といって、婆さんを抱き起こすと、駕籠に乗せて、皆して山から逃げ去ったと。

 商人は、ほっとして、夜の明けるのを待って里へ下りると、鍛冶屋へ行った。そして、昨夜の出来ごとを話すと、鍛冶屋はびっくりして、
 「わしとこの婆さんは、ながいこと患(わずろ)うてござって、そげなとこへは行かれません」
と笑っている。
 「そんなら、近頃の婆さんは、何を好(この)んで食べますか」
 「そうじゃの、魚ばかり食うようになった」
というので、商人は持っていた大きな鰤(ぶり)を鍛冶屋に差し出した。


 「これを、婆さんに進(しん)ぜて下され」
 鍛冶屋は喜んで、それを平鉢(ひらばち)に乗せて婆さんの寝ている鼻先へ持って行くと、婆さんは鼻をクンクンいわせて、
 「そこへ置いとけ」
という。
 鍛冶屋は、婆さんのいう通りにして、唐紙(からかみ)を閉めて部屋を出ると、すき間からのぞいたと。
 すると、婆さんは恐ろしげな白山猫となって、鰤を生のまんま噛(か)んでおった。
 鍛冶屋は、たまげてたまげて、刀を抜いて部屋に飛び込みざまに、山猫を斬り殺したと。
 「本当の婆さんは、どうしたのだろう」
とあっちこっち探したら、床の下に骨ばかりが残されてあった。
 山猫が婆さんをかみ殺して、われが婆さんに化けておったのを、鍛冶屋は知らんかったと。

 むかしこっぷり。

「鍛冶屋の婆」のみんなの声

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怖い

確か自分自身が7歳ぐらいから自宅内にあった学研絵ものがたり書籍内の題名では、しょうやのばばあと表記されたけれども内容は、ほぼ変わり無く怖いと感じたけれど今と成っては、しょうや自身が刀を借りて婆様の仇討ちするべきだったと思う。( 40代 / 男性 )

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