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とげぬきじぞう
『とげぬき地蔵』

― 東京都 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 江戸時代の中ごろ、江戸の小石川、今の文京区に、病の妻を持つ田村という侍がいてたいそうお地蔵さまを信心しておった。
 侍は、毎日、毎日、妻の病が早くなおるように、
 「帰命頂礼地蔵尊菩薩(きみょうちょうらいじぞうそんぼさつ)、帰命頂礼地蔵尊菩薩」
と、お地蔵さまをおがんでいた。が、妻の病は一向に快くなるようすもなく、日に日にやせおとろえてゆくばかり。
 そんなある晩のこと、侍の夢の中にお地蔵さまがあらわれ、
 「妻の病をなおしたかったら、わしの姿を紙に写し、一万体を川に流せ」
と申された。 


 侍が、ハッとして目をさますと、枕元に小さな板があった。何やら人の姿が彫ってあるように見える。墨をつけて、紙に押しつけると、それはお地蔵さまのお姿であった。
 侍は、さっそく一万体のお姿を紙に刷(す)り、両国橋から隅田川に流した。
 次の日のこと、妻が、
 「夢の中にお地蔵さまがあらわれ、私の枕元にいた死神を追い払って下さりました」 というた。

 不思議なことに、それからというもの、妻の病はうす紙をはぐように一日、一日とよくなり、半月もしないうちに、元の元気な身体になった。

 この話が広まり、お地蔵さまのお姿の札をもらいにくるものが、田村の家に次から次とやって来るようになった。お地蔵さまは、延命(えんめい)地蔵というて、命を延(の)ばしてくれるお地蔵さまだったそうな。


 それからしばらくして、毛利家(もうりけ)江戸屋敷の腰元が、針仕事をしているとき、口にくわえていた針を、あやまって飲み込んでしまった。
 さぁ、大ごとだ。腰元は、いたい、いたい、ともがき苦しむけれども、どうにもならん。医者が来ても、のどの奥にささった針はとり出すことが出来ん。大騒ぎしているところへ西順(せいじゅん)というお坊さんが通り合わせた。

 西順は、ふところから一枚の小さな紙をとり出すと、
 「このお地蔵さまのお姿を水に浮かせて飲みこんでみなされ」
というた。
 毛利家の者が、すぐ、腰元に紙をのませた。すると、間もなく、いたいいたいと苦しんでいた腰元は、「ウッ」とうめいて、口から、さきほどの小さな紙を吐き出した。よく見ると、お地蔵さまのお姿に針が一本ささっている。腰元の痛さもとれ 
 「これはお地蔵さまのおかげだ」
ということになり、田村家のお地蔵さまは、ますます評判になった。 

 
 田村家では、こんなありがたいお地蔵さまを、自分一人で持っていてはもったいない、ということで、上野の車坂(くるまざか)にある高岩寺(こうがんじ)におさめることにした。
 病気のひとはお地蔵さまのお姿を刷った札を飲めばいいし、身体の具合が悪い人はその痛い場所に札を張っておけばなおる、つまり、病のとげを抜いて下さるというので、いつしか、”とげぬき地蔵”といわれるようになった。
 とげぬき地蔵は、明治二十四年、高岩寺とともに上野から巣鴨(すがも)に移った。
 けれども、今でも大勢の人々が病気をなおしてもらいに訪れている。山の手線巣鴨駅の近くだから、病気になったら行ってごらん。きっと、すぐになおるよ。

「とげぬき地蔵」のみんなの声

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