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とっつこうか ひっつこうか
『とっ付こうか ひっ付こうか』

― 山口県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにお爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんが住んでおったそうな。
 あるとき、お爺さんは、山へ木を樵(き)りに行った。日暮れになってもカキンカキン樵っておったら、山の中から、
 「とっ付こうか、ひっ付こうか」
という声が聞こえてくるんだと。
 お爺さんは、ああ気味悪いと思ったけれども、知らぬ顔して木を樵っていた。
 するとまた、
 「とっ付こうか、ひっ付こうか」
と、言ってきた。


 『こんだけ年を取ったんじゃ。何が来ても、ま、恐れることはない』
 こう思って、
 「とっ付きたきゃあ、とっ付け。ひっ付きたきゃあ、ひっ付け」
と、言った。
 そしたら、身体(からだ)が重く重くなって来たと。
 「こりゃおかしなことじゃ。何がひっ付ただろうか、ひどく重たくなってきよった」
と、やっとこさで家へ帰って来た。
 「婆さんや、何か知らんがこんなにたくさんついたが、まあ、見てくれ」
 それで帯(おび)をといて見たところが、小判(こばん)がいっぱい身体にひっ付いている。
 「ありゃ、こげなええ物がひっ付いて。良かったのお、お爺さん」
 「ほんに、のお、お婆さん」
 言うて、二人で喜んでその小判をむしり取ったと。
 ところが、それを隣(となり)の欲深爺さんが見て、次の日、雨が降るのに山へ行った。


 真似(まね)をして木を樵っていると、日が暮れた頃、
 「とっ付こうか、ひっ付こうか」
と、聞こえて来た。
 これだ、これを待っていた、と、
 「とっ付きたきゃとっ付け、ひっ付きたきゃひっ付け」
と、言い返した。すると、ほんとに身体が重くなって来た。
 こりゃまあ、ごつい小判がひっ付いたぞ、一枚でも落しちゃあならんと思って、そろりそろり歩いて戻った。
 「婆さんや、まあ見てくれ。わしにも重たいほどひっ付いたで」
 「そうかえ、どれどれ」
と、婆さんが、まきの火を近づけてみると、何と、爺さんの着物に松やにやら、蛇(へび)やら、みみずやらが、いっぱい付いていた。 
 びっくりした婆さんが、おもわず火のついたまきを落したからたまらん。松やにに火がついて、欲深爺さんは身体中(からだじゅう)火だるまになって、とうとう死んでしまったそうな。

 これきりべったり ひらの蓋(ふた)。

「とっ付こうか ひっ付こうか」のみんなの声

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