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けんとうし
『犬頭絲』

― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところに一人の娘が住んでおった。
 娘はお蚕(かいこ)さんを飼(か)って、糸を取って暮らしを立てていたと。
 ある年のこと。お蚕さんが思うように育たなかったと。沢山(たくさん)飼っていたのに、ひとつ死にふたつ死にして、とうとうたった一匹になったと。
 一匹ばかりではしょうがないと思ったが、娘は、残った一匹がむしょうに可愛いくなって、それを大切に大切に育てたと。
 そしたら、それがよく桑(くわ)の葉を食べ、日毎(ひごと)日毎に育って、今まで見たこともないほど大っきなお蚕さんになった。 


 ある日、その大(おお)お蚕さんを表に出していたら、家に飼っている白犬がそれを呑み込んでしまった。
 娘がお蚕さんに桑の葉をやろうと、ちょっと目を離したすきの出来事で、止めるひまもなかった。
 娘は、たんせい込めた、たった一匹のお蚕さんを失って暮らしの張(は)りが無くなってしまった。来る日も来る日も泣いてばかりいたと。
 
 そんなある日、白い犬がしきりにくしゃみをしている。娘が犬のそばへ行き、犬の鼻が乾(かわ)いていないかどうかみようとしたら、その鼻の両穴から白い糸が少し垂(た)れていた。まるで繭(まゆ)の糸のように見える。不思議に思って、糸のはしを引いてみたら、二筋(ふたすじ)ともどこまでも長く続いて出てきた。およそ四、五貫(かん)ほども巻きとったらようやく終(しま)いになって、そのとたんに、犬はパタッと倒れて死んでしまった。


 娘は、先にお蚕さんをみんな失(な)くし、今度は飼い犬を亡くして、泣いて泣いて泣き疲れてその場で寝てしまった。
 そしたら夢の中に飼い犬が現れて、
 「悲しまなくていい。わたしを裏の桑の木の下へ埋(う)めて下さい。そしたら来年、きっといいことがあります」
という。
 目を覚(さ)ました娘は、夢で告げられた通りに犬を家の裏の桑の木の下に埋めてやったと。
 翌年(よくとし)、桑の木の下から、お蚕さんが自然に生まれて、桑の葉にたくさんとりついていたと。 
 娘はたんせい込めて育てたので、やがて繭をつくり、よい糸がとれて、くらしに困らなくなったと。

 ぽっちり。

「犬頭絲」のみんなの声

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驚き

なんで愛知じゃなくて島根で紹介されているのかわかんない 採話ってあるけど、してないと思う

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